第9話
「終わったってどういうことだ?」
「実は・・・・」
リアは少し話しずらそうに語り始めた・・・。
◆◆◆
勇者さまがアセチル谷へ出立なさる日、私はその前日、王から直々に勇者の護衛は騎士団たちがいるから必要ないと言われた。しかし、私は騎士団たちを信用できなかった。それには訳がある。騎士団たちは20年もの間、霊獣が襲ってこないことを良いことに昼間から酒を飲んだり、いざ訓練で集まったと思えば口から出るのは女や酒のことばかり・・・。訓練をやるにしてもテキトーに訓練をし、ごまかすやつもいる。そんな輩に勇者さまを守れる実力も権利もない。そんな中にもしっかりと訓練している人も何人かはいる・・・。
アセチル谷はひらけた場所にあるため魔獣が出ることも出たとしても戦闘になる機会も少ない。だが万が一のこともある。
私は、騎士団と勇者さまが都市を出たのを確認するとその10分後に私も追いかける形で出立した。
「待っていてください。勇者さま、私がお守りしますっ!!!」
===
どのくらい走ったのだろうか・・・。走っても走ってもやはり足と馬ではスピードが全然違うため騎士団と勇者さまの乗った馬車は見えてこない。
「王も何故あのような連中を勇者さまを護衛するようにしたのか疑問です。せっかく私たちという勇者護衛部隊が存在するのに・・・。信用されてないのでしょうか・・・。」
そんな弱気な疑問も浮かぶほど体も心もこの炎天下の中だと疲れ切ってしまっていたらしい・・・。
「いいえ、こんな弱気では守ることすらできなくなってしまう。頑張るのよっ!リアっ!ファイッ!オーーーーーー!!!!!!!!」
それからまたしばらく走っては少し休憩してを繰り返していると前方から見覚えのある馬車が走って来た。
「・・・っ!?あ、あれは勇者さまが乗っている馬車っ!!!」
無事にアセチル谷に行き、今から帰るとこなんだと安心した。しかし、実際は全然違うものだった。
流石に疲れているのもあり、私は、怒られる覚悟で馬車に乗せてもらおうと思い、声をかけた。すると―――――――――
止まった馬車から顔をのぞかせたのはラシロア騎士団副団長のオルフェノだった。オルフェノは焦った顔で馬車から降り、私に話しかけてきた。
「なぜ、お前がここにいるのですかっ!?!?リア=アレクサンドラっ」
「・・・ん?おい、顎鬚。いつから私とお前は対等な立場で話せる関係になったの?」
そう、勇者護衛部隊隊長の私と顎鬚ことオルフェノはラシロア騎士団副団長、部隊が違うとはいえ、しっかりと上下関係が存在する。そうしなければ、ほかの騎士団や護衛部隊などに示しがつかないからだ。
「・・・みょ、妙なことを言いますね、リア=アレクサンドラ」
「だから何度もっ・・・・・」
「おっと、女性にも関わらず切れやすいのはあなたの悪いところですよ。それに僕はもう副団長ではないのですよ。」
「なにを言っているんだ、バカめ」
「バッ!?・・・・ンンッ!!バカはあなたですよ。まだわからないのですか、私は今日、この時からラシロア騎士団騎士団長になったのですよっ!!!!!だからこそあなたとは対等な関係なんですよ勇者護衛部隊隊長様。」
「・・・っ!?」
オルフェノの言っているのことが本当に理解できなかった。なぜいきなりオルフェノが騎士団長になるのか。そんなことは絶対にあり得ない。なぜなら、既にオルフェノとは違う騎士団長がいるはずだからだ。オルフェノでは話が通じないと思った私は本当の騎士団長であり、私の親友であるエリエスを探した。しかし、エリエスの姿はどこにもいない。
「そんなに探しても彼女はいませんよ。」
「・・・っ!?」
私の考えを読んでいるかのように聞こうとしたところに釘を刺されてしまった。
「・・・・・エリエスは、どこにいる」
「さぁ」
「答えろ、オルフェノッ!!」
「そんなに知りたかったら、都市に戻りましょう。一緒に・・・。」
今、何が起きているのか都市に戻れば、すべてがわかる。けれど、本来の目的である勇者さまを・・・・・あれ?その勇者さまの姿が先程から見当たらないっ!?
「待てっ!!顎鬚、ゆ、勇者さまはどうしたんだっ!?どこにも姿が見えないぞっ!!」
「・・・・チッ!」
「リ、リア様っーー!!!!」
オルフェノはバツが悪そうな顔をし、舌打ちをしたと思った矢先、後ろの馬車から一人の人物が焦った顔で馬車を降り、駆け付けてきた。
「スリア司祭っ!!!なぜこんなところにっ!!!」
今この場にいるはずがない人物、そう王の側近でもある鑑定師スリア司祭がいた。
「わ、私は勇者さまに王から伝言があったためにここにいるのですっ!!!しかし、大変なことになってしまいましたっ!!!」
「し、司祭さまっ!?何をっ!?」
オルフェノが口を挟もうとしたがそれを制止させ、鑑定師の言葉を促した。
「なにがあったの?」
「じ、実はアセチル谷に向かったまではよかったんですが、勇者さまが興味本位でアセチル谷に近づいた際に、足元が崩れてしまい、そのまま奈落の底にその・・・転落してしまいましたっ!!!」
「・・・なっ!?!?」
な、何が起こっているのっ!?頭が・・・痛いっ・・・!!!私はいつの間にか膝を折り、うなだれてしまっていた。
「おい、顎鬚。お前っ何故、勇者さまを救出に行かず、戻ってきたっ!!!なにが”騎士団長になった”だっ!自分の役目も果たせない奴がっ!!!そんなことほざいている余裕があるならっ!!!」
何が起こっているのかわからなく、頭が困惑と怒りでいっぱいになってしまい、気づいた時にはオルフェノの胸ぐらを掴み、怒鳴り散らしていた。
「お、落ち着いてくださいっ!!!リア様っ!!!」
そんな姿を見ていた鑑定師と騎士団たちは無理やりオルフェノと私を引きはがした。
「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・くっ!!!!」
「・・・しかし、助けるにしても人員も物資もましてやアセチル谷の谷底はとても危険です!!それにもう勇者さまは・・・」
「死んだとでも言いたいの?」
「い、いえそのようなことは・・・」
「・・・人員も物資も必要ない。私、一人で救出しに行く。今は、危険なんてことは関係ない。”助ける”この選択肢だけよ。・・・馬車を出せ、ここからは私の指示に従え。いいな、オルフェノ。」
「・・・・・・。」
私の指示を受けた騎士団は、少しおびえた様子ですぐに馬車を動かし、アセチル谷に向かい、馬車を走らせた。
===
アセチル谷に着くと、私は左手首の手甲の中に忍ばせてある一本の糸を引っ張り出し、馬車に括り付けた。
この糸は糸と鉄や硬い鉱石などを私が錬成したもので、人間二人くらいなら余裕で支えられる強度を持っている。
「よし、私が糸を引っ張ったらお前たち騎士団たちで引き上げろ」
「わ、分かりました」
「・・・・・・。」
騎士団や鑑定師は納得したようだったが、オルフェノだけが私に一瞥もくれない。
自分のミスで勇者さまが危険に落ちいていることを気にしているのか、私のことが気に食わないのか、何が何であれ勇者さまを助けたいとは思っているはず。そんなことを脳裏をよぎったが、時間は無駄にはできない。私は危険など気にせず谷底へ飛び込んだ。
「勇者さま、ご無事でいてくださいっ・・・。」
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