第5話

頭の中には俺と思われる人物の映像が流れ込んできたが、今はそんなことは関係ない。今はただ、目の前にいるこの憎い怪物を殺すことだけ。

怪物は、俺の憎悪や殺気に怖気ずく様子もなく、一歩、また一歩とまた歩み寄ってくる・・・。俺もそんな怪物に臆することなく、瞳を合わせ睨み付けた。


怪物は自分の鼻息がかかるくらいまで俺に接近し、この人間を食らってしまおうと言わんばかりに大きく口を開いた・・・・。


=====


「勇者さまっ!!!!!!!!!!!!!」


頭上から、一つの声が響いてきた。怪物はそんな声にも反応を示すことはせず、俺に大きな牙を突き立てようとした。


しかし、怪物の牙は俺に届くことはなく、代わりにキンッ!!という金属音があたりに響いた。俺の前には、怪物の牙を二本の刀で押さえつけている人の姿が目に映った。腕や足の大部分を露出した黒と赤を基調とした着物を身に着けており、手首には黒い手甲を身に着け、まるで忍者のくノ一のような格好に、深紅の髪を後ろで結んでいる女性の姿。女性男性に関係なく、鋭い視線で怪物を睨み付ける女性に初めて怪物が怯んだ気がした。押さえつけている二本の刀は怪物の力に押しつぶされる気配はなく、刀の刀身は一切微動だにしていなかった。


「・・・・・・ッ!!!!!!」


力の差を感じ取った怪物は初めて自分から距離をとった。


「お前は・・・・・」


怪物が離れたのを見るや否や、俺の方を振り返り駆け付けてきた。


「勇者さまっ!?大丈夫ですか!?すみませんっ!!私が目を離した隙にこんなことになるなんてっ!!すみませんっ!!すみませんっ!!すみませんっ!!」


さっきまでの覇気は一切なく、一辺倒に謝る姿はさっきまで怪物を抑えていた人物とは思えない普通の女性・・・。だが俺は、この女を知っている・・・。昔に一度だけ会ったことがある・・・。


「お前、まさかリアか・・・・?」


「は、はい!!勇者さまっ!!覚えていて下さったんですねっ!!ラシロア騎士団勇者護衛部隊隊長リア・アレクサンドラですっ!」


ラシロア騎士団勇者護衛部隊隊長リア・アレクサンドラ。この部隊はただ、俺すなわち勇者を護衛するためだけに作られた部隊。しかし、護衛部隊と言っても近くでずっと護衛しているわけではなく、遠くから勇者を見守り、危険が迫ればその身を挺して守り、さらには、国王に勇者の現状などの報告、監視としての役割も担っていたする。


俺がまだ、勇者の天職を見定められ、間もないとき、王であるシャルライトから護衛役だと紹介された女・・・。その時はお互い、子供でリアが一つか二つ年上だった気がする。そのため、あまり顔を合わせないので、気づくのに時間が遅れてしまった。


「・・・・っ!!!あぁ、体にこんな傷を負ってしまって・・・。しかも、腕も左目までもがこんなにも血を流してしまって・・・。い、今、止血しますっ!!」


「やめろっ!!!!!!!!!!!!!」


「・・・・っ!!!!!」


いきなりの俺からの怒号にリアは驚きを隠せないようだった・・・。


「な、なぜです!!このままでは勇者さまが死んでしまいますよっ!!!!」


「信用できない。勇者護衛部隊だからと言ってもアイツの部下には変わりはない」


「なにを言っているんですか!!今は刻一刻を争っているときなんです!!駄々をこねないでくださいっ!!!」


「やめろって言ってるだろっ!!!!!」


また俺に手当てをしようとしたリアをまだ残っている右手で突き飛ばした。


「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・グハッ!!!!」


大声を出したせいか口からは吐く息とともに体の内から登ってきた血も吐いてしまった・・・。


「勇者さまっ!!・・・なら、どうしたら私を信用してくれるんですかっ!!!!」


リアはめげずに俺に手当てししようと駆け寄ってくる・・・。


「そんなものっ・・・・・・!!!!」


「グルァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!!!!!!!!!!」


そんな俺たちの会話など気にせず横やりを入れてくる怪物がいる。怪物は俺たちに向かいまた牙を向け駆けてきた。


「・・・・・邪魔っ・・・・・。」


リアが囁いたと思った瞬間、俺の前から姿が消え、怪物の体には複数の切り傷とともに怪物の血と思われる緑の液体が切り傷から流れていた・・・。


弐小太刀ふたつこだち―――――乱閃らんせんっ!!!!!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る