第4話
「・・・・っく、・・・んん・・・・こ、ここは・・・」
重い体を起こそうとするが体の節々が痛くてしばらくは動けそうになかった・・・。
(生きて、るのか?)
深い谷底に落とされ、生きていることに不思議に思い、頭だけを上に向け、目を堪えて見ると草木が薄っすらと見えてきた。
地上には一切生えていなかったのに谷の岩壁からは草木が生い茂っている。上から見た時は底は暗く、見えなかったが、何故か暗いはずの谷底からはしっかりと見えている。
それに、下は硬い地面ではなく、柔らかく、羽毛のような手触りが心地よい質感の地面・・・。それに、あたりに響く、グル ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ッ!!!!!!!!という何かの唸り声。
何かの唸り声があたりに響いた瞬間、僕の体は宙を舞った・・・。そして、壁にぶつかったことによって僕の体は止まった。
理解が追いついていない頭を必死に回し現状を把握しようとした。頭をフル回転させた結果、一つだけ分かったことがあった。
「左腕が動かせる??」
何故かロープで縛られているはずの左腕が自由に動かせるようになっていた。
「そうだ!早くこの縄をほどいて母さんの元に戻らなきゃっ!!きっと今頃、僕が帰ってこなくて心配してるにきまってる!!」
・・・・・・あれ?・・・・・・
僕は思い出したかのように必死に縄を解こうとしたが一向に解ける気配がなかく、疑問に思い自分の左腕を視界に入ると・・・・・
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!!!」
僕の目に映った左腕は二の腕の先からなくなっている状態だった。左腕を見た瞬間、なくなっていいるはずの左腕に熱を帯びた感覚と激痛が襲ってきた。
い、痛いっ!!痛いっ!!痛いっ痛いっ痛いっ痛いっ痛いっ!!!!!!!!!
な、なんだこれ!?なんで腕がなくなってるの!?!?!?なんでっ!?なんでっ!?どうしてっ!?!?
熱いっ!!熱いっ!!熱いっ!!痛いっ!!痛いっ!!痛いっ!!痛いっ!!熱いっ!!痛いっ!!痛いっ!!
もう僕の頭の中は、正常な判断をできる状態ではなく、ただ、痛いっ!!と叫ぶだけしかできなくなっていた・・・。
そんな僕をあざ笑うかのようにじっと見つめてくる生物が僕の前に立っていた。僕はなくなった腕を抑え生物を視界に入れた。体長が10メートルくらいあり、四足歩行の生物。大きな爪をはやした四本の腕、なんでも喰らいそうな口と牙。例えるならば、オオカミを数倍にも大きくした姿だろう。
「なんだ、この怪物は?」
今までに見たことがない生物だが、直感的に僕の左腕を失った原因と分かった。だが、僕だって勇者になるために日々励み、スキルだって3つ獲得したんだ。せっかく、崖から落ちて助かった命、無駄にはしないっ。
「ス、スキル発動!!解体っ!!」
僕は、まだ残っている右手を怪物の毛皮に触れて一回も使ったことのないスキルの名を叫んだ。ところが―――――――――
「あ、あれ!?!?発動しない!?!?」
何かが起こるわけでもなく、ただ怪物に触れているだけの状態。何度もスキルの名を叫んでみたがやはり発動する気配すらなかった。
上から水滴が落ちてくる。何かと思い、怪物の顔に目を送ると怪物の口からは僕の左腕だった肉塊が口から垂れている。そして僕に見せつけるように目が合ったのを確認すると僕の左腕を口の中に入れぐちゃぐちゃと咀嚼しながら食った。
「う、うわぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!」
水滴が僕の血だと分かった瞬間、脳は恐怖に支配された。
そんな怪物の姿を僕は恐怖心と何も出来ない焦燥感で顔を涙や鼻水でぐちゃぐちゃにして、ただただ見ていることしかできなかった・・・。
僕の左腕を食い終わった怪物は、今度は口からよだれを垂らした。
そんな怪物の姿を見て僕は察した”僕はこの怪物に捕食される”と・・・。恐怖の中、僕の中にはいろんな感情が駆け巡る。
なんで、僕はこんなとこにいるんだ?
なんで、僕は死ななければいけないんだ?
なんで、王は僕を殺すんだ?
なんで、楽に殺してくれなかったんだ?
なんで、皆、俺を裏切るんだ?
なんで、俺はコイツのえさにならなければいけないんだ?
なんで、俺を勇者として認めてくれなかったんだ・・・・。
・・・・・こんなにも・・・こんなにも・・・頑張ってきたのにっ・・・・。
いろんな思いが俺の中を駆け巡る・・・。そんな俺にも容赦はなく、怪物は俺を下から引っ掻きまた吹き飛ばしてきた・・・・。ただ俺を遊び道具として遊んでいるかのように俺を食らわない。
今の一撃で、体に怪物の爪で切り裂かれ、さらには、左目までもが怪物の爪の餌食になってしまったらしい・・・。しかし、痛みはなかった。いや、違う。今の俺は痛みよりも俺をこんなことに陥れたやつに対しての憎悪が俺の感情を支配していた。
「クソッ!!クソッ!!!クソッ!!なんで、俺がこんな目に合わなきゃならねーんだっ!!!!!!クソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
俺は、最後の力を振り絞り、怪物の方に体を向け叫んだ。
その瞬間、また頭の中を駆け巡った。しかし、先程のような感情ではない。はっきりと鮮明に映像が頭の中を駆け巡った。その映像は俺が経験したことがないもののはずなのに何故か既視感があった。
俺とは対照的な黒髪の男。
男が手に持つのは鋭利なナイフ。
それを振り下ろし、腹を割り、はらわた、腕、足、顔と解体していく。
不敵に笑う男の顔に飛び散ってくるのは赤い鮮血。
この男の名前も顔も誰の記憶なのか知らない。しかし、直感的にわかる気がした。
これは―――――――――――――――俺・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます