第3話

カイロット城を訪れた次の日。僕の家の前には鎧を身に着け、剣に盾、杖と装備を施した屈強な男たち総勢30名以上が集まっていた。


「それでは、参りましょうか。アクリール殿。」


「は、はい。」


一人の騎士が僕に話しかけてきた。ラシロア騎士団騎士団長オルフェノ。年は40半ばほどで顎髭にメガネとユニークな姿をしている。しかし、他の騎士たちよりも年老いてはいるがやはり騎士団長と言うべきか威圧的な一味違う雰囲気を感じた。


「気を付けてね・・・」


今日は何気に自分の中で緊張しているのが分かった。お母さんもそんな僕に気づいているかのように心配そうな目を向けていた。


「うん、大丈夫だよ。母さん、いつも通り待ってて」


「・・・分かったわ・・・」


◆◆◆◆


馬車に揺られながら30分ほど・・・。もう、後ろを振り返ってもラシロア都市は見えない。それにしても暑い、今日はギラギラと太陽が照らしてくる。緊張のせいか変な汗までもが出て異常に暑い・・・。


熱さや緊張にやられていては勇者としてやっていけないと思い、気合を入れなおした。


「大丈夫ですか、アクリール殿。」


そんな俺を見かねたのかオルフェノ騎士団長は水を差しだしてくれた。


「ありがとうございます、オルフェノ騎士団長・・・」


「いえ・・・緊張しているのですか?」


「やっぱり、分かっちゃいますか・・・。結構、緊張しています・・・。」


「大丈夫ですよ、アクリール殿。何かあった時には我々があなたの盾になってでも守り抜きますから!!勇者になるお方を死なせません!!」


「本当にありがとうございます・・・。」


俺の緊張を取り除こうとしているのか、オルフェノ騎士団長は道中気遣ってくれて優しい口調で話し続けてくれた。


====


馬車に揺られながら5時間、ようやくアセチル谷が見えてきた。


「見えてきましたよ、アクリール殿。」


「あれが、アセチル谷」


「そうです。」


アセチル谷は谷というよりかはただただ深く広く広がった穴のようなもの。周りは草木などは全くなく見えるのは地平線くらいに何もない。昔はここら一帯は山岳地帯だったのだが、何故か、一夜にしてここら辺の山はなくなり、その名残でアセチル谷と呼ばれているらしい。そんな不可思議なことがあるのかと原因を探してはいるもののまだわからないままである。


「少し、失礼しますね」


「・・・はい?」


そんな始めてみる景色に魅入られ、アセチル谷の方を見ようと馬車から身を乗り出し感傷に浸りながら見ていると後ろからオルフェノ騎士団長が声をかけてきた。と思った矢先―――――


「ぐっ・・・!!あっ・・・かっくっ・・・かっ・・・!!?!??」


後ろから縄のような細いひもで首を締めあげられた・・・。声を出すこともできずそのまま僕の意識が遠のいていった・・・。遠のく意識の中、騎士団たちがドタバタと馬車の中を移動する音だけが聞こえてきた・・・。


◆◆◆◆


バシャッ!!!!


「・・・・・ろっ」


「・・・きろっ」


「・・・起きろっ!!アクリールッ」


遠のいていったはずの意識が覚醒していく・・・。覚醒し、目を開いてみるとそこに広がっていたのは今まで生きてきた中で見たことのない光景だった。地平線が広がる茶色い景色、下を見ると先ほどまでは見えなかった崖が広がっており、底が全く見えず、見えるのは暗い景色だけ。


「う、うわぁぁっ!?!?」


「おっと、あまり暴れない方がいいですよ。アクリール=ベイン」


後ろから聞こえる声、オルフェノ騎士団長の方へ振り返ろうと体をよじらせようとしたが体が動かない。自分の体を見てみるとロープでグルグルに固定されているのが分かった。


「き、騎士団長っ、これはどういうことですか!?」


「それは・・・・」


「あぁ、それは私から説明させてもらうよ。」


オルフェノ騎士団長が話そうとしたとき、その後ろから聞いたことのある声が聞こえてきた・・・。


声の主、それは・・・・カイロット城にいた鑑定師の声だった。ここにはいるはずのない人物が現れた。


「な、なんであなたがっ!?」


「私は王の命令をあなたに伝えに来ただけですよ。」


「め、命令?」


「はい、王はあなたに命令を受け渡しました。」


・・・死んでくれ・・・と


鑑定師の言葉は一言一句理解することができなかった・・・。


「・・・・な、何言って・・・・」


「あなたは優秀なはずなんですがね、理解できないはずがない。」


「言葉の意味を聞いているんじゃない!!なぜ、王が私にそんな命令を下したのかが聞きたいんだ!!」


「あらあら、口の利き方がなっていないようですね。・・・・もういいでしょう、早く殺して帰りましょう、オルフェノ騎士団長。」


「分かりました。」


オルフェノ騎士団長が俺に一歩、また一歩と近づいてくる・・・。


こ、殺す?なぜ?オルフェノ騎士団長は僕を助けてくれるんじゃなかったのか?盾になっても助けるって・・・・。嘘、だったのか・・・。


「それでは、さようなら。アクリール殿。」


オルフェノ騎士団長は優しい口調で僕をアセチル谷へ突き落した・・・。


なんで、なんでなんだっ!?!?!?なんでっこんなことにっ・・・・・


谷の底へ落ちていく中、頭に母さんの顔が鮮明に浮かんでくる。


ごめんなさい、母さん。


・・・・・・・・・・・勇者になれなくて・・・・・・・・・・・


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