第2話
「なんだ、早く言え。」
「は、はい。この者のスキルは・・・
一つ目が[解体]
二つ目が[不意打ち]
三つ目が[追い討ち]、です。」
鑑定師の口から出てきた僕のスキルの名前たちは勇者が所持するスキルとは名前からして縁遠いスキルだった。
「なっ!!!!!」
「な、なんですか!!このスキルは!?」
王が話そうとしたところを僕は驚きのあまり口を挟み鑑定師に聞いてしまった。
「それはこちらが聞きたいことだ。アクリール殿。」
「・・・っ!?」
苛立ちを覚えたシャルライト王が僕を睨み付けながら聞いてきた。すごい眼圧で少し怯んでしまった。
「私は知らない名のスキルたちだ・・・。しかしこのような名のスキル、普通に暮らしていて身に付くものではないぞ。アクリール殿、この15年間、何を学び、何を思い、何をしてきたのだ。」
王の意見はごもっともだ。僕もこんな名前のスキルなんて知らないし、この質問に対して怯んでしまったら僕はもう勇者になんてなれない・・・。
「私は、この15年間、世のため人のため、すべてを守れる勇者になるために勉学に剣の技術を身に着け努力してまいりました。」
「・・・・・・・」
少しの間、僕のことを観察し続けた王は鑑定師のほうに耳打ちし、耳打ちされた鑑定師はこちらにお辞儀すると暗幕のほうへ消えていった。
「アクリール殿のこれまでの努力や決意は十分に伝わってきた。」
「あ、ありがとうございます。」
「ただし、勇者になる条件を一つだけ加えさせてもらいたい。今の君のスキルは使い方によっては簡単に人を殺めてしまうスキルだ。わかっているな。」
「はい、わかっています。」
確かに、こんな暗殺を得意としているスキルを持った勇者なんて信用されるはずがない。
「それで、もう一つの条件とは何ですか?」
「もう一つの条件、それは・・・・・騎士団とともに魔物が住む谷<アセチル谷>に行き無事に生き残り帰ってくることだ。」
固唾をのんで聞いていた僕の耳に入ってきたのは、ざっくりとした条件だった。
ただ、アセチル谷に行き、帰ってくるだけ・・・。
「明日の朝には出立してもらうぞ、アクリール殿。」
「は、はい。分かりました、勇者として認めてもらえるよう生きて帰ってまいります。」
「うむ、下がれ。」
今の僕はただ勇者になるためだけに生きているようなもの。そんな僕には拒否する理由なんてものはなかったし考えている暇さえもなかった。
◆◆◆
僕はカイロット城を出た後は、今まで張っていた糸がプツンッと切れたかのように緊張が解け、抜け殻のような状態で帰路についた。そしていつの間にか都市の外れにある我が家に着いていた。
「ただいま。」
いつもよりも重く感じるドアを開き、家の中へと入った。すると帰りを待っていたのか母がすぐに家の奥から出てきた。
「あら、おかえり。どうしたの?元気ないわね。」
「いや、別に何もないよ。」
「そっか、それよりどうだった?勇者になれた?」
「・・・・・」
今、一番聞かれたくないことを一番聞いてほしくない人に聞かれてしまった。
まぁ、聞いてくるのは当然のことだよな。
「・・・・明日、アセチル谷に行ってくるよ」
「えっ!?そんな危険な場所にもう行くの?まだ、勇者になって1日も経ってないのよっ!?」
「心配しないで、僕一人ってわけじゃないから。騎士団がついて来てくれるらしいから。」
「そうなんだ、よかったよ~・・・それじゃあ、何のために行くの?」
「それは・・・・・下見だよ。これから、こういう危険な場所で活動していくんだから。最初から足を踏み入れるわけじゃないよ。」
何故だか、僕は本当のことを言えなかった。
「そうなのね。分かったわ、気を付けて行ってらっしゃい」
「それじゃあ、今日はもう寝るね」
「ご飯はいいの?」
「うん、今日はもう疲れちゃった」
「そう・・・おやすみなさい」
「おやすみ」
この会話を聞いて少し淡白に聞こえたかもしれない。しかし、母さんとは別に仲が悪いわけではない。むしろ、全然仲はいいほうだと思う。でも、今日、勇者として認めてもらうはずだったのに認めてもらえなかった。明日を乗り越えなければ今まで育ててくれた母さんに合わせる顔がないと思った。
母さんは女一つで僕を育ててくれた。僕が5歳のとき勇者としての天職があると知るやいなやすぐに僕に勉学や母さんは昔、騎士団に所属していたことがあったため剣の技術も教えてくれた。
最初のうちは母の気持ちも分からず、嫌々やっていた僕だったが、今では母の気持ちが手に取るようにわかる。母は将来、僕が勇者としてやっていけるようにと僕を鍛えてくれた。その気持ちが分かった時から、僕は気持ちを切り替え、努力していった。
世のため、人のため・・・母さんのためと。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます