天職が勇者だった僕は、裏切られ殺人鬼と化す
夜月 秋朝
第1話
「勇者の誕生だ!!!!」
5歳の誕生日、僕、アクリール=ベインは勇者としての天職を示された。
この国では、5歳になった子供たちは教会で鑑定師に自分の天職を見てもらうことが決まっている。そして、鑑定してもらった天職に向けて子供たちは努力していくことが定められている。
定められていると言っても強制ではない。自分が望まない天職が示されても違う職に就くこともできる。天職を目指すのも天職以外を目指すのも個々の自由だ・・・。
しかし、5歳の子供にはそんなことはわからない。なので親たちが決めることが多い。一つ一つの天職には固有スキルが存在するため違う職にするとその職の天職に人たちとは差ができてしまう可能性もある。それでも、天職以外を目指す人も意外と多かったりもする。
だが、ひとつだけ選択権がない天職がある。
それこそが勇者だ。
◆◆◆
20歳になった朝、5歳の時に天職として勇者を示された僕は正式に勇者の称号を得るためにラシロア都市にあるカイロット城へ向かっていた。まだ僕が勇者の天職を持っていることは
「いたたたぁぁ」
しかし、カイロット城へ向かう途中、腰を痛そうに抑えているお婆ちゃんがうずくまっているのを見つけた。見たところどうやら、階段から転落してしまったらしい。
「大丈夫ですかっ!?」
「あ、あぁ。大丈夫だよありがとね〜」
幸いなことにそこまで高いところから転落したわけでもなく、腰に少しだけ痛みが走っただけだという。
「荷物貸してください。送りますよ、どこまで行くんですか?」
少し腰に痛みが走っただけと言っても油断はできないし、このままお婆ちゃんを見過すわけにはいかない。
「いやいや、いいよ~。そこまでしてもらうのは悪いわ・・・。」
「大丈夫です。今、とっても暇なので」
「・・・そうかい?それじゃあ、お言葉に甘えようかね。」
お婆ちゃんは少し迷っていたが、やはり腰が痛むせいかすぐに承諾した。
===
僕は、おばあちゃんを送った後に急いでカイロット城へ向かった。約束の時間までには間に合いそうだった。
カイロット城は、このラシロア都市の中心部にあるお城だ。
やはり、お城というだけあって広く、正門にはしっかりと門番が配置され、いたるところに兵士が配置されている。
「止まれ、そこの男。何の用でここに来た。」
門番は俺に不審な目を向けここに来たことを訪ねてきた。
「えっと、僕は今日、正式に勇者の称号を得るために王に会いに来ました。」
「勇者?・・・なるほど、分かった。それでは、少し調べさせてもらうぞ。」
そういった門番の目は青色に光り、僕をじっと見つめてきた。
多分、[認証スキル]を使っているのだろう・・・。認証スキルは[鑑定スキル]の下位互換と言えるスキルだ。なぜなら、名前に年齢、天職にスキルなど、あらゆる個人情報を見ることができる鑑定スキルに対し、認証スキルには名前と年齢だけしか分からないからだ。しかし、認証スキルだってただの鑑定スキルの下位互換というわけでもない。認証スキルは誰でも、素質と努力をすれば身に着けることができるのに対し、鑑定スキルは鑑定師の固有スキルであり、鑑定師という天職でなければ習得は不可能だからだ。
「名前は・・・アクリール=ベイン。年齢は20。本物だな、話は聞いている。案内しよう。」
「ありがとうございます。」
認証が終わると門番はすんなりと俺を城内に入れてくれた。
門を開けると長く入り組んだ廊下に、数多くの部屋。流石に一人だけで王の下である玉座の間に行くことは不可能と感じせざるおえないくらい中は広い。歩いている途中には使用人と思われる人たちと何度もすれ違った。
長い廊下をひたすら歩き、ひと際目立つ華やかで大きな扉。大きな扉の前には、中に人が入っているか分からないが何十体もの鎧が並んでいる。こここそが玉座の間だ。
「着いたぞ、勇者となる者よ。」
「ここまで、ありがとうございました。」
「くれぐれも王には無礼がないように。」
「はい、わかっています。」
「よし、ならいくぞ。」
門番は僕に注意喚起をすると、大きな扉を4回叩いた。
「王様。勇者の天職を持つアクリール=ベインが到着しました。」
門番が扉に向かい叫ぶと数秒してから扉が勝手に開いていった。扉の向こうには赤いカーペットが広がっている。扉が開き、赤いカーペットを進むと階段を上ったところには大柄な男が玉座に鎮座していた。
「王様。勇者の天職を持つアクリール=ベインを連れてまいりました。」
「ああ、ご苦労。」
シャルライト5世、このカイロット城の城主。つまりラシロア都市の王である。シャルライト5世は屈強な体つきに鋭い眼光、見た目はかなり年老いているが騎士団長をしていても不思議ではないほどの風格がある。実際に数十年前は騎士団長をしていたらしいとかしていないとか・・・。
「下がってよいぞ。・・・鑑定師」
「はっ!!」
門番に命令し、鑑定師を呼ぶと王の後ろの暗幕から王とは対照的な体格な細い体つきの男が姿を現した。
「この者に鑑定スキルを。」
「分かりました。」
王から命令を受けた鑑定師は、細っこい体の割には鋭い眼光からカッと目を開くとともに瞳孔が赤色に光始めた。
もう俺に対して鑑定スキルが使われているのだろう・・・。
勇者になるためには3つの課題をクリアしていなければならない。
1、天職が勇者であること。
2、勇者としての固有スキルを持っていること。
3、勇者としてこの15年間で勉学や戦闘面など、努力し何かしらのスキルを得ていること。
上の二つは正直、何もしていなくとも手に入れるのは容易い。しかし、最後の一つは鑑定スキルを持つ者は僕の周りには存在していなく、努力しても自分がどんなスキルを得ているのかそれとも得ていないのか、それが全然わからなかった。だから僕はひたすらに努力を積み重ねた。勇者になるために・・・。
「えーーー、名は、アクリール=ベイン。天職・・・勇者。勇者としての固有スキルは・・・・・・確認できます。」
「うむ。」
王もここからが本番だと言わんばかりに気を張り続けている。それはそうだ。まだ、鬼門となるスキルの発現が残っている。僕も王と同様に鑑定師が読み上げるまでは気が抜ける気がしない。
「して、スキルは。」
「はい、確認できます。三つほど。」
「おぉー、少し少ないが多少は努力を積み重ねてきたのだな。」
三つもスキルを持っている。王は少ないと言っていたが、スキルなしで勇者になれないという最悪な展開は回避できたので僕的には満足の結果だった。
しかし―――――――――――――――
「その、三つのスキルはなんだ。」
「えーと、それが・・・・」
先ほどまですらすらと僕の天職などを王に伝えていた鑑定師が見るからに急に焦りはじめた。
胸騒ぎがした気がした。
その胸騒ぎの正体はすぐにわかることになる。
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