神霊族と精霊族

 ヨセフさんが素早く馬車に入ってマントを持ってくると、アンナ達に手渡す。


「もうよろしいですよ」


 許可をもらって振り向くと、アンナとゾフィがデンワツタを驚きながらも面白そうに使っている。


「ほんとうにお父様なんですね。近くに来ているの? え? そこは世界樹の森なんですか? まさか、信じられない、こっちはまだ街道の真ん中辺りですよ」


 二人の反応をみて、ヨセフさんがオレに問いかける。


「クチキ様、アレはどこでも使えるものなのですか」


「いや。あー、オレならどこでも使えるが、他のヒトには決まったところでしか使えないかな。で、アレをカーキ=ツバタにも置かせてもらえないかと思って」


ヨセフさんは思案顔を少ししたあと、アンナに話しかける。


「失礼、アンナ王女様。少々よろしいですか」


 ゾフィに早く代わってとせがむアンナに、ヨセフは何やら話すと、馬車に引っ込む。

 アンナはこちらに来ると、一礼をする。


「世界樹のクチキ様、ご無沙汰をしております。このような姿で申し訳ありません」


「あ、いや、こちらこそ突然の訪問、申し訳ありません」


「事情は承りました。ただいまヨセフにデンワツタ設置の推薦文を作らせています。それに私のサインを入れますので、それを女王陛下にお見せください」


 有り難い。プレゼンが通る材料がひとつ増えたぞ。


「助かります。女王陛下に許可をもらい次第、設置。そしてモーリのところと繋げて、御報告します」


「楽しみに待ってます。それはそれとして、帝国の使者を追い返してしまったというのは本当ですか」


「あ、はい。少々失礼なことを言われたので、つい」


 神霊族信仰だから精霊を下にみると言われたことを話すと、アンナはなぜか納得した様子をみせる。


「伝え聞く話、文字通り神話なのですが、神霊族がこの世を創り、生き物を産みだした。その世話をするために精霊がさらに創りだされたといわれています」


この世界の創世記かな? こっちも似たような神話があるんだな。


「数多の精霊がこの世の面倒をみてくれるおかげで生き物は生きていけるので、感謝の対象なのですが、一部の信仰者は神に愛されているヒトの方が偉い、精霊などに遠慮する必要ないと考える者もいるのです」


……ああ、そういうこと。

 当たり前のように世話になっているから、感謝の気持ちを忘れた連中ということね。


「アンナも──というかカーキ=ツバタ王国もそうなのか」


 だとしたらユーリの言った、あとから裏切る話に信憑性がでてくる。


 だがアンナは首を振ると否定した。


「正直に言いますね。わが国は女神族の信徒がほとんどです、国教ですから。

 ですが、ご存知の通り自然に囲まれて他国との交流も少ないところなので、感謝の気持ちを忘れてはいません。

 女神フレイヤ様には守られている感謝を、精霊には生きる糧をいただける感謝を持っています。

 ただ、国民全員がそうとは言えません」


「本当に正直ですね」


 まあそうだろうな。どの集団にもはねっ返りはいるもんだし、それを統一したら独裁国家だもんな。


 そこにヨセフが板と紙を持ってくる。どうやら手紙のようだが、これってオレの知ってる紙じゃないな。なんか茶色いし。


「ご確認の上、こちらに署名をお願いします」


ヨセフからそれを受け取ると、アンナは目を通したうえでサインを入れる。


「こちらが推薦文です。どうぞお持ちになってください」


丸めて金輪に通されたそれを受け取ると、あらためて確認。どうやら羊皮紙というやつらしい。


 不思議そうにしているオレに、ヨセフが訊ねる。


「なにか?」


「ああ。これって羊皮紙ってやつかい。動物の皮でつくった紙という意味なんだけど」


「ええそうですが、それがなにか」


「いえ、はじめて見たもので」


 そうとぼけたが、これはまたいい材料が手に入ったぞと内心喜んだ。


「では、失礼します。吉報をお待ち下さい」


 一礼をしたあと、影響の出ない安全な場所まで移動して、全力疾走をはじめる。


 見送ってくれたヨセフが、あっという間に観えなくなる。

 脚が軽快だ、どうやらオレの精神状態で能力に影響が出るようだな。


※ ※ ※ ※ ※


 夜明け前に目的地近くまでに到着する。

 先程の失敗を踏まえて、夜が明けるまで待つことにすると、街路樹に触れてヒトハを呼び出す。


「ヒトハ、聞こえるか。到着したぞ」


「お父様ぁ、お待ち申し上げておりましたぁ」


 なにこのパパ大好きキャラみたいな反応。

 ちょっとデレてしまうじゃないか。


 木陰に移動して精霊体となり、ヒトハに直接会う。

 ビジュアルイメージが変わっていた。

 エンジ色のジャージ姿だったのに、下級ドライアドの基本形である白い薄い生地のワンピースに、ちょっと装飾を施したエンジ色になっている。


「なにか変わったことはあったかい」


「変わったことってぇ」


「先に来ていたんだから、オレが来る前に下調べしておかないとダメだろ」


「あーん、お父様が怒ったぁ」


 なんだこの甘ったれキャラ。アディがしっかり者にみえてきた。

 上級ドライアドは全員こうなら、この先当てにならないぞ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る