偶然プレゼン
見張りは雇われ兵のような身なりだったが、動きは訓練された者のものであり、合図とともに応援がやって来た。
「あ、怪しいモノじゃない。尋ねたい事があるだけだ」
と言って信用されるわけじゃないか。
「ユグドラシル樹立国のクチキというものだ。こちらはひょっとしてカーキ=ツバタ王国からの──」
「怪しいヤツめ、こんな真夜中にひとりで歩いているヤツなど脛に傷持つ者に決まっているだろう」
──うん、そうだよね。オレでもそう思うよね。
「ましてやそんな軽装で、街道のど真ん中にいるなんて怪しすぎるだろうが」
──またかよ。見た目で判断されるなんて。
「人は見た目じゃない中身だよ、なんて絶対ウソだ」
「なにをごちゃごちゃ言っている、大人しくここから立ち去れ」
去ってもいいけど、もし後援部隊ならどうしても会っておかないと。
「ホントに怪しい者じゃない、クチキ・ユグドラシル・シゲルという者だ。誰か話の分かる──アンナはいないか? 彼女なら──」
「隊長を呼んでこい、コイツ怪しすぎるぞ」
「捕えるぞ、逃がすな、抵抗したら斬ってもかまわん」
かまうわっ!!
アンナの名前に反応したな、間違いなく後援部隊のようだった。とはいえ話がわかる相手じゃなさそうだ。
先のことを考えると揉めたくないが、相手するしかないか。
仕方なく身構えると、彼らの後方から背の高い男がやってくる。
「皆の者、動くでない。ヨセフ様、あの者でございます」
火のついた薪で照らされ、顔を確認される。
「どうやら本当にクチキ様でいらっしゃいますようですな。ご無沙汰しております、侍従長のヨセフでございます」
侍従長って、ああ、カイマ襲撃事件の時に会ったあの老紳士か。ヨセフっていうんだ。
「ご無沙汰です、ヨセフさん。カイマ襲撃事件以来ですね」
ヨセフが背の高い男に言う。
「衛兵長、こちらの身分はわたくしが保証します。警戒を解いてください」
「は、わかりました。侍従長殿。皆んな、警戒態勢にもどれ、あとは侍従長殿にお任せする」
衛兵が一礼すると、担当配置に戻っていく。残ったのはヨセフとオレだけだった。
「クチキ様、こんな真夜中にどうなされたんです」
「あ、カーキ=ツバタに行く途中だったんだけど、こちらを見かけたんで後援部隊なら伝えたい話があって」
「話とは? よろしければ承りますが」
「アンナはいないのかい」
「クチキ様、このような御時間に御婦人に御会いになるのははなはだ失礼ですぞ。ましてや王女様になら、そのようなことを言っただけで不敬罪に問われますぞ」
「……失礼しました」
うーん、今日は厄日かなぁ。
少々落ち込みながら、さっきの出来事とカーキ=ツバタに向う理由を話した。
「なるほど、三日後に帝国の使節団本隊がお越しになると。それでそのデンワというモノはどういったモノです」
「あー、と。見せたほうが早いかな」
そう言って近場にある街路樹まで行くと、触って触手ツタを生やし、デンワツタに加工する。
その工程にヨセフは驚く。
「これが、デンワというものですか」
「そう。これを使って遠くの相手と話すことができるんだ」
「それは今つかえるのですか」
「そうだな……ヨセフさんはモーリと面識はあったよね? 親衛隊隊長ゾフィの父親の」
「存じ上げております」
真夜中だから寝てるかな? とりあえずかけてみよう。
──しばらくしてからモーリがでる。
「モーリ、寝てることろすまない、よくでてくれた」
「ああ、やっぱりクッキーさんでしたか。どうしました」
寝ぼけた感じの物言いだったが、とりあえず使い方を教えてヨセフに代わる。
「ここに話しかければいいのですか? モーリ殿、聞こえますか」
「はいはい聞こえますよ、どちら様かな」
「侍従長のヨセフです。そちらは本当にモーリ殿ですか」
「ヨセフヨセフヨセフ……、ああ、侍従長の?! ご無沙汰しております、娘がお世話になってます」
どうやら目を覚ましたらしい、その反応で、ヨセフも相手が本当にモーリだと理解したようだ。
いつも沈着冷静な老紳士イメージのヨセフが少々興奮気味に話している。
いいねぇ、納品したソフトが便利だ、助かった、と顧客に言われてるみたいだ。こういう反応大好き。
その時だった。
「ヨセフ、本当なの?! いまモーリと話してるの?! 私にも使わせて」
そう言いながら可愛らしいランジェリー姿の少女が飛び出してきた。
「アンナ、なんて格好で出るのです」
そう言いながら、これまたランジェリー姿の美女が出てきた。ゾフィだ。
可愛らしいがそれでも上品なデザインのブラジャーとパンツ姿のアンナ。
清楚で機能的なデザインのブラジャーとパンツ姿のゾフィ。
美しいそれらを見て、もっと見たいという欲求とともに、ヨセフからの殺気を感じて、慌てて目をそらす。
アンナはヨセフからデンワツタをひったくると、話しかける。
「モーリ、聞こえる? アンナよ」
「ア、アンナ王女様?! どうして」
「わあ、ホントだ、ホントに話せるぅ。ゾフィ、お父様よ、ホントにモーリの声が聞こえるの」
背後からはしゃぐアンナの声を聞きながら、偶然だがプレゼンは成功したなと心の中でガッツポーズをした。
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