あと三日の一日目

 しかたなく一緒に生け垣を巡って、カーキ=ツバタ王国の現状を調べる。


 日が昇りはじめたので、視認しやすくなる。精霊体でも光に左右されるんだなと、変な感心をした。


「やっぱりこれ、セントラルパークだよな」


「セントラルパークって?」


「オレの故郷にあった巨大施設。テレビ塔の代わりに王宮があるのと、規模が大きくて城壁に囲まれているけど、レイアウトはあそこそのものだ」


 おでことヒトハのおでこをくっつけると、イメージを流す。


「わぁ、ヒト族がいっぱい。お祭りか災害避難みたい」


なんでその二択なんだ。


 クワハラはセントラルパーク建築に関わっていたらしいが、ここまで再現できるのなら、けっこう中心の人物だったのかな。


 城壁の四角と支柱ごとに大きな宝石が追加されている。あれが限定対魔術結界の装置みたいだな。

 下方を覗いてみると、柱の下にも設置してある。

 立体的に結界が張られているんだな。


「まあその前に、地下からもう根を這わしてしるからいいけどね」


 おかげでユーリと連絡がとれる状態だ。


「あ、しまった。まだテレビを作ってなかったよ」


 ユーリがいま居る部屋の西壁に少しづつ樹液を染み込ませ、教室の黒板くらいの大きさでフラット画面のテレビを作る。これで良しと。


「オレはこれから王宮に行く。ヒトハたちは生け垣で待機、何かあったら連絡するからそれまで待て」


「えー、ヒトハも中に入りたーい」


「結界があるから精霊体じゃ入れないの」


「じゃ、お父様はどうやって入るのー」


「マリオネットに憑依して正面からだよ」


「でも結界に引っかからないのー」


 話し方はアホっぽいけど、わりと鋭いな。


「王国に内緒で根を中に生やしてあるから、大丈夫だよ」


 まだブーブー文句をたれるヒトハをなだめたあと、マリオネットに戻る。


※ ※ ※ ※ ※


「おわぁ、ヒ、ヒトになったぞ」


なんだなんだ、コイツらは。


 街路樹の木陰に隠していたのに、見つかっていたらしい。衛兵に囲まれていた。


「な、何者だ」


立ち上がって、衛兵に説明する。


「アヤシイ者じゃない、ユグドラシル樹立国から来たクチキという者だ。王宮から連絡は入ってないか」


「王宮からだと。そんなものは聞いてないぞ」


「そんなはずは──」


 そのとき、別の衛兵がやって来た。


「おーい、ユーリ様からクチキという者が来るから通してくれとのお達しだ」


それオレーーー。


「そのクチキだ。この通りアンナ王女からの親書を持ってる」


懐から羊皮紙を出して見せる。


「この金輪は王家のもの。失礼しました、こちらへどうぞ」


 やれやれ、いきなり時間を取られるかと思ったよ。

 今日を入れてあと三日しかないんだ、早くしないと。


 状況を整理しよう。


 今のコトからも分かるとおり、オレはこの世界の社会的常識を知らない。

 だから帝国との交渉には、それらをレクチャーしてもらわないといけない。

 そのためにエルザ女王にお願いしなくてはいけないのだが、それはユーリがやってくれた。


 あとはオレがそれを覚えなくてはならないから、さっさと戻らないといけない。


 それとは別に、カーキ=ツバタ王国の思惑を知っていないと、交渉の行方というか目的がズレる場合がある。なので、それを訊きにきた。


 その前に、ユーリと打ち合わせて森の、ユグドラシル樹立国の目的も、明確にしなくてはならない。


「まずはユーリに会わなくては」


※ ※ ※ ※ ※


 王宮に着き、ユーリの部屋に案内してもらい、扉の前で声をかける。


「ユーリ、クッキーだ。いま着いたよ」


 扉が開くと同時にユーリが情熱的に抱きついてきた。


「逢いたかったよクッキー、お前がいなくて寂しい想いをしていた」


 案内してくれた侍従や衛兵の前で、ひと目もはばからずいつまでも抱きつくユーリに困惑する。


「お、おい、ユーリ」


「つもる話もある、中に入ってくれ」


 案内してくれた連中をしり目に、引きずるように部屋に入って扉を閉められる。


「どういうつもりなんだい」


オレは訊くが、ユーリは抱きついたままで離れない。


「ちょっとな。いつ開けられてもいいように、このまま話すぞ。後援部隊は着いたか」


「途中で出くわして、事情を聞いた。夜営していたから、着くのは今日の昼頃じゃないかな」


「そうか」


「こっちも困ったことが起きた。帝国の使者を怒らせてしまった」


 昨夜の出来事を話す。


「ふむ。モーリの言う通り、難癖をつけるのが目的だったんだろうな。どちらにしろもめてただろうから気にするな」


「どう対処する」


「クッキーの目的は支配地を増やすことだろうが、それを正直に言うと、侵略されると思われてしまう。だから今の世界樹の森の範囲を自国、もしくは領域として認めさせる。というのが落としどころだろうな」


「なるほど、国ではなく精霊の領域として認めさせれば、立入禁止にすることができるか」


となると、気になるのは昨夜からの出来事だ。


「ユーリ、今までそんなことを言われてなかったけど、精霊はヒト族に下にみられているのか」


 オレは帝国の使者とモーリ、アンナから聞いた事を話すと、ユーリは少し困った顔をした。

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