美聖女戦士

──いったいどのくらい時間が経ったのか分からない。


 コウモリカイマはまだ増えてくる、ユーリを拐おうとするヤツを槍で刺し、弱ったところを剣でトドメをさす。

 ヤツ等の行動パターンが読めてきた、女をテリトリーに連れていくのが第一目的で、それを遮るものを殺すのは二の次らしい。

 ユーリが倒したのにトドメを刺すのと、複数攻撃にあわないように援護するのが、オレの役目だった。


それの繰り返しであるが、さすがに疲れてきた。


マリオネットゆえ身体的な疲労はないが、気が抜けないから精神的疲労がつのる。


「クッキー、こっちよ、あ、あっちからも、来たよ来たよ、あっ、また来た、」


「うるさいぞアディ、もっとわかりやすく教えろっ」


──まったく心配させやがって──


アディの躯体反応が途切れた時は本当に焦ったが、その直後に精霊体で泣きじゃくりながらこっちに飛んできたから、ホッとした。


如何に恐かったかを一通り話した後、ようやく落ち着いて今は野次馬ギャラリーとなっている。


「せめて明かりがあれば……」


 羽ばたく音が聴こえたと思ったら、すぐユーリを抱えて飛び上がろうとするのが目には入る。

 それを槍で阻止し、また構える。

 見えないというのはこんなにも緊張を強いられるのかと考えたその時だった。


ぽっ


ぽっ


ぽっ


と、王宮の方から明るくなってきた。

 それが近づくと正体がわかった、道沿いにある柱に篝火を掲げている。それがいちばん近づいた時、ひゅっと風切り音がした。


ぐえぇぇ


ユーリを襲おうと待ち構えていたコウモリカイマ2体が矢に射されて落ちてきた。すかさずユーリとオレはそれらにトドメを刺す。


「いったい……」


「無事か、世界樹殿」


ゾフィ隊長の声だ。

 篝火はさらに拡がり、大広場全体を明るく照らす。そこにはフード付きマント姿のゾフィ隊長と、同じ姿の人が10人くらいが居た。


「モーリと衛兵大隊長から話は聞いた。わが国を守るために、ひとり命を落としたそうだな。すまない疑ってしまって」


アディのことか


深々と頭を下げるゾフィ隊長の後ろで、本人が悪ふざけしているのは黙っておこう。


「ご苦労であった、しばらく休んでいてくれ。わが国、カーキ=ツバタ王国の真の力を見せてやろう」


「真の力?」


「それを見にカーキ=ツバタここに来たのだろう」


大広場の端に行くように言われ、そこに行くとゾフィ達はなにやら始めた。


 ゾフィともうひとりか広場中央に立ち、他の者が周囲に立つ。12人、全員で14人か。


中央のひとりがマントを脱ぐ、エルザ女王だ、戦装束を着ている。


それに続きゾフィ達もマントを脱ぐ。篝火の明かりにてらされ浮かび上がったその姿は──


「ビ、ビキニアーマー」


──13人のビキニアーマーの女戦士だった。


 大広場の回りにある柱に掲げられた篝火の明かりが、14人の女達を闇夜に照らし出していた。


白銀に輝くビキニアーマー、それは


膝上まである鎧長靴ブーツ

へそ下を被う腰鎧ボトム

胸から肩を護る胸鎧トップス

腕に付けられた鎧長手袋ガントレット

そして胸の中心と同じ宝石が額にあるティアラ


それらが赤いラインでマーキングされ、ゾフィ隊長らの美しい裸身をさらに際立たせていた。


それぞれタイプは違うが、格好良さと美しさをあわせ持つその姿、カイマ達が狙わない訳がない。

 空中のコウモリカイマ達が我先にと、それぞれの戦士に襲いかかる。


ボトムに帯びた剣を鞘から抜くと、戦士達は果敢に立ち向かっていく。


そんな中、エルザ女王が目を閉じ精神を集中している。そして唱える。


「女神族の長にしてすべての女性の神フレイヤ様に、カーキ=ツバタ王国5代目女王エルザ=クワハラ=カーキツバタがお願い申しあげる。わが国の民を護るために、美しきフレイヤ様の娘にして強き戦乙女、バルキリー様達の御力を、我らの美聖女戦士達に賜えたまえ」


エルザ女王が唱え終わると、空に大きな円が現れそこから光が照らされ美聖女戦士達にあてられた。


「うそ、あれって」


アディには何か見えているらしいが、オレとユーリは光しか見えない。

 何が見えているんだと訊くと、アディはオレと重なり視えるようにしてくれた。

 その映像をオレがユーリの頭に流して視えるようにする。


「女神の降臨よ」


13の女神が、光を放ちながら天空の円から降りてきて、武器を捨てたビキニアーマーの戦士達に重なった。


「唱えよ、美聖女戦士たち!! バルキリーパワー レイズ アップ!! 」


白銀のビキニアーマーが光輝き、額と胸の宝石が、くすんだ紅から輝く青に色が変わる。そして背中から白く大きな翼が具現化された。


「綺麗だ……」


思わず感嘆の声がもれた。


 輝きが消えていく──すると美聖女戦士たちが、圧倒的な力でカイマ達を倒しはじめる。

 まるで粘土細工を潰すように、コウモリカイマ達を軽々と倒していく。


 ゾフィ隊長の指揮のもと、美聖女戦士たちは2人1組となり、4組が空に舞い上がり四方に飛び去る。残りの2組は上空のカイマ達に向かっていった。


 そこまでの指示を終えると、ゾフィ隊長はオレ達に来るように呼び掛けたので近寄った。


「世界樹候補のクチキ殿とドライアド様の娘殿とエルフ殿ですね。はじめまして、フレイヤ様の娘バルキリーの長女にして長、ブリュンヒルデと申します」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る