ユーリの活躍

 城壁の真ん中辺りで、ユーリ達に追いついた。


というか、何かもめていて止まっている。

 オレはユーリに話しかけると、アディがユーリを押し退けて抱きついてきた。


「クッキー、聞いて聞いて、ユーリったらあたしを、あたしをこんな恥ずかしい格好にさせたのぉぉぉ」


「わかったわかった、頑張ったなアディ。アディの魅力のお陰でカイマが出てきたんだ、ありがとうな」


半泣きのアディを慰めると、ユーリに現状を訊いた。


「こちらは衛兵大隊長で、東城壁守備の責任者だ。こちらの意向を説明するところだったんだが、アディの格好を咎められてな、まだしていない」


大隊長か、さてどう説明しようかなと思案する前に、ついてきた小隊長がユーリのやってきた事と立場を説明した。


「ふん、本当に女王陛下の使いなのか。そんな報告は受けてないぞ」


大隊長の疑いはもっともだが、来る途中のカイマを倒した事実はある。それを理由にハッタリを押し通した。だからモーリ、上手いこと女王陛下達を説得してくれよ。


ふっ、と辺りが暗くなった。


日が落ちたか、と思ったと同時だった。


ついにカイマ達は猛撃してきた。


河向こうから続々とコウモリカイマが飛来してきて、外壁にへばりついていたヤモリカイマや色んなタイプのカイマが躍り出てきたのだ。


 日の光が無いカイマ達は強い。簡単に倒せると思ってた衛兵達は思わぬ攻撃に劣勢となる。


「怯むな、カーキ=ツバタの兵の底力をみせる時だぞっ」


大隊長の激が飛ぶが、夜の闇とカイマ達の思わぬ強さで、衛兵達はまだ動きが鈍い。

 さらにコウモリカイマも近づいてきた。弩を構えるべきか、剣を振るうべきか、大隊長も指示に迷う。その時、ユーリが大声を張り上げる。


「聞け、カーキ=ツバタ王国の勇敢なる衛兵たちよ。我が名はユーリ、エルフのユーリだ。そなた等の建国の勇者、クワハラと共に100年前にカイマと戦った者だ。カイマは強い、だから3人1組で立ち向かえ、そうすれば勝てる。ヤツ等の狙いは女だ、国を護る為に戦わなくていい、母を、妻を、恋人を、娘を、姉を、妹を護る為に戦うんだっ」


「伝令を出せ、西側守備隊は飛んでるカイマを狙うように。北と南は3人1組で登ってくるカイマを相手にするようにと」


ユーリの言葉に引き継いで大隊長が命令を飛ばした。


「ありがとう、大隊長」


「礼にはおよばん。ワシも建国の伝説は聞き及んでいるからな。真偽はともかく今は言葉に従おう」


劣勢だった衛兵達は盛り返してきた。ここは任せるべきだろう。


「クッキー、私達は取りこぼしたカイマを相手しよう。私が囮になってヤツ等を惹き付ける」


「大丈夫か」


「護ってくれるんだろう」


ユーリの当然のように信頼している言葉に、オレはドキッとした。

一緒についていくというアディに、ここでの囮役を頼む。


やだやだと渋っていたが、カーキ=ツバタ王国6万人の女より魅力的なアディでないと出来ない役だからと説得して、快く引き受けてもらった。


「いくぞユーリ」


お腹のあたりを蔓で結び、オレの首にユーリの腕を巻きつけてもらい抱き合う形になると、蔓を伸ばして、ユーリが指定した王国中央にある大広場に向かって先程のように飛び降りた。

 さすがに2人分の重さはきつい。勢いがつくぶん蔓に負担がかかる。


「ユーリ、渡してた実をくれないか。そろそろ補充したい」


わかったと言うと、ポケットから取り出すが、移動中だからなかなか口に入れられない。

 ユーリは実を自分の口に含むと、オレに口移しで入れてくれた。




 大広場にたどり着くと、ユーリはマントを脱ぎ捨て、わざと自分の衣服を破り、肌を多く見せる格好になる。


「アディだけに、やらせるわけにいかないからな」


 すると、上空から奇声をあげてコウモリカイマがやって来た。ユーリが鞭で叩き落とすと、オレが蔓を巻きつけ捕まえる。


「この暗闇でよく見つけたな」


「匂いだよ。昔からヤツ等は女の匂いに敏感なんだ。昼間見たとき地下街の通気孔があるここにあったから、やってくると踏んだが当たりのようだな。

 それとクッキー、まだヤツ等を捕まえなくていい。今捕まえてもジャマなだけだ、夜はまだ始まったばかりだぞ」


ユーリの言葉にオレは気がついてしまった。これが夜明けまで続くということを。


まずい


[世界樹の実]はアディに渡したものしか残っていない、あれが無ければオレは人並みの事しか出来ない。


しまったな、連れてくるべきだったか。しかし2人を抱えての移動はできなかったのは、さっき身を染みて分かったしな。

しかたない、今やれることをやるしかないか。


オレは世界樹の森にある、アディいわく[世界最硬の木]を材料に、槍と剣を10組ずつマリオネットから創り、最悪の事態に備えた。


「ユーリ、槍と剣を創った」


「両方くれ」


ユーリは腰のベルトに剣を挟み込み、槍でコウモリカイマに対応する。

オレも真似て、槍を使って戦う。




「くそ、まだいるのか」


 いったい今何時か分からないが、夜明けまでまだあるのだけは、分かっていた。

 それなのにカイマ達はどんどん増える。このままじゃ囮のユーリ以外にも目を向けるヤツ等が出てくるかもしれない。

 王国の衛兵だけで足りるだろうか、一般人の男達で対応できるだろうか、どうする。


 やはりアディが持っている[世界樹の実]が欲しい。しかしユーリと地下街の女達をおいていくわけにもいかない。


バキッィィィィンンン……


「なにぃ」


「どうしたクッキー」


「……アディの躯体の反応が途切れた……」


アディが──やられた!?

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