カイマ来襲

 手首から蔓を伸ばし、柵の外にある錠前に挿し込み開ける努力をするが、なかなか開かない。


仕方なくオレは諦めて、全力で扉をぶち壊した。


「大丈夫、クッキー」


「今のでひと粒分使っちゃったな」


ポケットから残りの実を取り出す。あと3つか。


「ユーリ、ひと粒持っててくれ」


「いいのか」


「それがあればユーリが何処にいるか分かるから。こちらの用が済み次第すぐに向かう」


「わかった」


「ちょっと、あたしは? あたしの分は?」


「アディは同じ素材の躯体同士だから、無くても分かるだろ」


「ユーリばっかりずるい、あたしも欲しい」


説得する時間が惜しい、オレはアディにもひと粒渡した。


「よし、じゃあ予定通りユーリ達は、カイマの状況を東の衛兵達に伝えに行ってくれ。オレ達は女王陛下かゾフィ隊長に伝えに行く」


「そのあとは」


「訓練された衛兵達に混ざっての行動はジャマになるだけだろう。イレギュラー的な事が起きたら、オレ達で対処しようと思う」


「わかった。私達はなるだけ東の城壁にいることにしよう」


打ち合わせが終わるとオレ達は走り出した。

 移動する時、目隠しされなかったのが幸いしたのと、アディが外まで案内してくれたから、王宮の玄関まではすんなり来れた。

外の景色を見て、オレはカイマ達が東城壁にいるのを理解した。


「そうか、影だ。日が西に傾いているから城壁の影が伸びて、おそらく川向こうの地下道出口まで届いたんだ」


太陽は西城壁に隠れはじめている。日没まで時間が無い。


オレ達は二手に分かれ、それぞれの目的地を目指す。モーリとオレは、おそらく王宮の上の方にいるだろう女王陛下を目指すことにした。が、途中王宮の衛兵に見つかり、追いかけられる事になった。


「クッキーさん、彼らに事情を話した方がいいんじゃないですか」


「それだと、女王の耳に入るのに確実性が無い。直で話したい」


「しかしこのままでは間に合いませんよ」


モーリの言う通りなんだが、さてどうしよう。よし、


「女王陛下ー、ゾフィ隊長ー、お話がありまーす」


オレは同じ言葉を叫びながら上の階に行ったり下の階に行ったりして走り回った。


追いかける衛兵が増えてくる。だいぶ走り回ったな、そろそろいいか。


「モーリ、わざと捕まってくれ。これだけ叫びまわったから、たぶんゾフィ隊長が来るはずだ。そしたら事情を説明してくれ」


「はぁはぁ、わ、わかりました。クッキーさんは……」


「東の城壁に行く。あとは頼む」


わかりましたと言いながら、その場でへたり込むモーリをおいて、オレは3階の王宮の回廊から外に出ると、[世界樹の実]を口にして、手首から蔓を伸ばし、アメコミの蜘蛛男の如く、東の城壁に向かった。


 3階から、なるだけ高い木や建物に蔓を伸ばし、東の城壁へと行く途中、街中を見る。

 どの家も戸締まりして、誰も出かけていない。ちょっと意外だった。

 正直、行政の命令をきかない跳ね返りはどこにでもいる。だから多少の人通りはあると思っていたが、まったく無い。


「わりと善政しているのかな」


そんなことを思いながらも、飛んでいくとユーリとアディの反応が強くなってきた。東城壁の上、北端あたりか。


 そっちへ方向を変えて近づくと、なんとなくシルエットが見えてきた。

さらに近づくと、ようやくはっきり見えてきたが、何やってんだアディあいつ? 城壁上の内側の端に立っているが、裸じゃないか。


さらに近づくと、裸じゃないのが判った。あれ、オレが見せたビキニの格好じゃないか。マジで何やってんだ。


もうすぐ到着というところで、アディが南に向かって走り始めた。

それに合わせて、アディが通ったあとから騒ぎが起きる。あれは戦闘の音だ。


城壁まで到着したが、さすがに高い。実のチカラはまだある。手首から蔦を出して城壁を登り、上に出た。


「これは……」


カイマが何体かすでに倒されていた。


空はだいぶ夕焼け色になってきたが、まだ日の光はある。だからそれを浴びたカイマ達が弱っているところを、衛兵達が倒したのだろう。そこまでは判るが、どうしてこうなった。


衛兵のひとりを掴まえて、事情を訊くと


「女王陛下の使いというエルフと女がやって来て、この真下にカイマが来ていると言われました。ですが、我々が信じられずにいると、エルフ殿が自らの、その、胸の下着をですね、御自分のムチに縛りつけて、城壁の外に垂らしたのです。そうしたら、カイマが釣られて出てきたので、その場で倒して、我々は信用したのです」


オレも女王陛下の使いで仲間だと言い、エルフ達はどうしたと訊く。


「エルフ殿がもうひとりの女に囮をするように言って、最初は嫌がってましたが、クッキーをあげるからどうのと聞いたら、裸みたいな格好になり南に向かって行きました。エルフ殿と小隊長も後について行き、注意を呼び掛けています」


オレはわかったと伝えると、ここを頼むと言い、ユーリ達を追いかけた。


詳細は分からないが、アディの格好とユーリの匂いでカイマ達を誘い出して、近くにいるという事を衛兵達に教えているんだろう。

 オレはエルフの仲間だ、と叫びながら追いかけていく。


 途中途中でカイマが何体も倒されている。オレはようやくユーリの考えが解ってきた。


最初に見たカイマがコウモリ型だったから、カイマは飛んでくると想像していた衛兵達はクロスボウで構えていたのだろう。

 それが足下から来たら、懐に飛び込まれてやられていたかもしれない。

 だから弩から剣に持ち替えさせる為に、やっているのだと。

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