牢屋でのんびりしてられない

 太陽の位置から察するに、北からの景色が始まる。正面から流れる大きな川の流れは早く感じる、かなり先まで続いているから上流までこんな感じなんだろう。


 映像は東に向く。見渡す限りの大草原の遥か先に、茶色の線が見える。たぶんあれが[大地の嘲笑い]なんだろう。

 あそこから日中飛んでくるとは、やはり考えづらい。


 視線を手前にずらす。途中途中に村らしいのが点在している。あの中のどれかが襲われたのだろう。

 一番手前まで見ると、さっきの川が流れている。北から流れた川は城壁手前で曲がり、王国の東側を流れ、そのまま南へと続いている。


 南側の城壁向こうは、森が続いてる。オレの森マイワールドに比べれば大人と赤子くらいの差があるな。

 そこの城壁には大きな門があり、今はそこから城壁外に住んでいる人達が中に入ってきている。


 西側は、オレ達が使ってきた街道が西に続いていて、その周りは平原である。こちらの城壁にも門があり、そこからも人が城内に入ってきている。


 アディはそこから城壁上の道を沿うように飛ぶ。


 大人4人分くらいの高さの城壁の上は、横並びすれば大人3人分の幅があり、弩を持った衛兵が等間隔に並んで警戒していた。


東側だけ高く造ってあるんだなとオレは思った。


東側の城壁は大人5人分くらいの高さで縁がせりだしている。

いかにカイマ達に警戒しているか、よく分かる造りだ。


城壁内もぐるりと廻る。


王宮は長方形の国内の中心から北にずれたところに建っており、そこから南に中央通りが門まで続き、その途中に大きな広場がある。

そこ以外の場所は格子状に道があり、民家やお店が建っていた。なんか見たことのある造りと配置だな。




 ここでいったん見るのを止める。モーリは初めての体験で興奮気味だった。


「順調に避難しているようだね、あの人達は何処へ行くんだろう」


「たぶん地下街でしょう。あそこなら少なくとも女だけなら入りますから」


「この国の人口ってどのくらいなの」


「たしか10万人くらいでしたかね。まあそれらは自宅にとじ込もって、場外の住人の女は地下街で、男どもは衛兵の応援てところじゃないですか」


「となると……、やはりカイマ達が昼間やって来た事が気になるな。アディ、もう一度見せてくれ」


今度はオレだけが見る。気になるところがひとつあったのだ。

東側の大草原の映像をもう一度見ると、やはりおかしなところがある。


「クッキー、何がおかしいの」


「大草原の所々に不自然なへこみがあるのと、穴があるんだよ」


オレはアディから離れると、考えをまとめる。何か見落としている。なんだ、何を見落としているんだ。


ふと目の前にいるユーリとモーリを見る。


そしてようやくわかった!


いけない、カイマ達はもう来ている!!


「モーリ、すぐ衛兵かゾフィ隊長を呼んでくれ、カイマ達はもうそこまで来ている」


「どうしたんですクッキーさん、カイマ達は早くても夕方に[大地の嘲笑い]から来るんでしょう。まだ日は高いですよ」


「違うんだモーリ、ヤツ等はすぐそば、おそらく川の向こうまで来ている、早く報せないと」


「クッキー、私達にも解るように話してくれ。何故そう思った」


もどかしく思いながらも、オレは皆に考えを話した。


地底の民ダークボトムズのカイマ達は100年のうち1年ある繁殖期で、他の種族を襲う。そのため今オレ達は迎撃準備をしているな。だからこの1年に目を奪われているんだが、じゃあヤツ等はあとの99年は何しているんだ」


「何って……、そんなのわかる訳ないじゃん」


「カイマ達は襲った女の特徴を取り込んだ子供を産む、ユーリの話しによればエルフとヒトは間違いなく取り込まれている」


ユーリはここで気づいたらしい、オレが何に慌てているか気づいたようだ。


長命族エルフの寿命と道具を使うヒトの技術を手に入れているかもしれないと言いたいんだな、クッキー」


「その通りだ。だからアディの映像をあらためて見たら、やはりあった。[大地の嘲笑い]の方向から不自然な地面のへこみと所々の穴がな」


「……地下を掘っていたのか」


「99年もあれば、じゅうぶん過ぎるだろう。近いから、目の前に女がいるから、おそらく知能的に下等種と交わった次世代カイマが、我慢できずにやって来た。それなら辻褄が合う」


「アディ、頼む、もう一度東側を見てきてくれっ」


ユーリの言葉に、精霊を使いっ走りに使うんじゃないわよっ、と言いながらもまた見に行くが、今度はすぐに戻ってきた。


「たたたた、大変よっ、カイマが、カイマ達が、東の城壁の外側にびっしりとへばり着いてる、イモリとかアリみたいなのが、まるで壁がカイマで出来ているみたいにっ」


「なんでだ、まだ日は落ちてないだろう」


「知らないわよ」


「モーリ、早く連絡を。ゾフィ隊長とつながっているんだろう」


だからアディが居なくても牢番は咎めなかった。

 おそらくオレ達が女王達と話している間に、控室で頼まれたか命令されたのだろう。


「それが……、話を聞くだけで、こちらからの連絡とかはきいてないんです」


ちぃ、そこまでオレ達を警戒してなかったか。ありがたいが、今は裏目に出たな。


「やむを得ん、脱走するぞ。アディとユーリは東の衛兵達にこの事を伝えてくれ、オレとモーリは、ゾフィ隊長か女王陛下にこの事を伝えに行く」


オレは[世界樹の実]を取り出すと、1つを口にした。


「いくぞ!!」

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