手厳しい文官
衛兵が控えるように言うので、モーリに倣って片膝姿勢で頭を下げていると、衛兵達の緊張が伝わって、どこからか女王陛下がやって来たのが伝わってきた。
「本日昼前、見たこともない獣人が飛来し、国民を傷害および誘拐未遂をするという事件が起きました。獣人は、ここにいる旅人、狩人のクッキー、アディ、ユーリの3名により獣人を捕獲そして殺害。当国内において理由のいかんなく殺害は罪になるので、3人の身元保証人である当国国民、セントラルパーク サカエストリートに住む仕入れ屋モーリとともに連行しました」
ちょっとまて、なんか耳馴染みある地名が出てきたぞ。セントラルパークにサカエだってぇ。
「顔をあげよ」
気にはなったがオレの好奇心を満足させるより、今の状況を何とかする方が先だった。
オレ達は顔をあげると、想像通り豪華な椅子に女王陛下が座っており、御付きの文官らしき女性が傍らに立っている。
前世でも今世でも王族に会うのは初めてだが、こんなにも威厳があるのか。こりゃ衛兵もモーリも緊張するはずだ。
「此度の件、女王陛下が大変興味を御持ちである。陛下より即答が許されているので、女神フレイヤの名に誓い包み隠さず正直に話しなさい」
御付きの文官からの言葉に、モーリは、はいと応える。
女性陛下は質問する時、御付きの女性を通してで、こちらはそれに答える。
即答を許しても自らは話さないのね。しかもこちらからの質問は駄目と。
「モーリとやら、そなたは[100年後の災厄]が来たと周辺住民に言ったらしいな。何故そう思ったのだ」
「2日前の事です、私は仕入れの旅の帰り道でした。東の村にさしかかったところ、村が全滅していました。最初は大がかりな強盗団に襲われたと感じましたが、金品や食糧が残っていて女の死体が全く無かったというのが気にかかりました」
「それで」
「今日の朝帰ってきて、聞き慣れない鐘の音を聴いた時、思い出しました。全滅した村の状況は伝説といわれた100年前の災厄と同じ状況だということに」
「それで[100年後の災厄]が来たと思い、まわりに伝えたわけか」
「さようでございます」
そういうことか。となると100年前になにかあったということか。
ん?
100年前といえば、オレもなにかあった時だな。
転生して100年頑張って育ったオレが、切り倒された時だ。
これは別件か、それとも関係があるのか。
「モーリとやら、[100年後の災厄]というのは、あくまでも伝説だ。そなたのした事はなんの根拠もない流言であるぞ」
文官の言葉にモーリは言い返そうとしたが、有無を言わさない語気で文官は言葉を続ける。
「なるほど確かに獣人が飛来してきた。モーリの言う通り東の村も襲われたとしよう。だがそれらを結びつけるのは、些か早計ではないか」
確かにそうだ、それを結びつける根拠は無い。
「お恐れながら、それならば何故普段聞いたことの無い鐘が鳴ったのでしょう。あれは災厄があった時の鳴らし方ではないのですか」
「確認をとったが、あれは見張り当番であった新兵が慌てて鳴らしたのが原因であった。つまりは関係ない」
「そんな」
「納得したか。では次に客人の3人に訊く。旅人だと言うが、我国には如何様な理由で参ったのだ」
文官の矛先はこちらに向いた。さて、なんて答えよう。ビキニアーマーを見に来ました、で通じるかな。ここは無難にユーリの目的である道具の仕入れに来たがいいかな。
「あたし達はビキニアーマーを見に来たの」
うん、さすがアディ。打てば響くように無思考で答えるのね。
「ビキニアーマー? とは? 」
おや、意外にも文官は知らなかったか。あまり街に出ないのかな。
モーリが手を上げ発言の許可をもらうと、今街中で流行っている衣装の類いだと説明した。
「そんなものが流行っているのか。お前達は何処から来たのだ」
「ここから西に3日歩いたところの森よ」
「森? どこかの国か村ではないのか」
「そんなとこ住むわけないじゃん、あたし達は森でないと生きていけないんだから」
「狩人というのはそういうものなのか。まあそんな生活をしてたら、そういうものも見たくなるんだろうな」
どこかずれている会話を、オレはドキドキしながら聞いていた。とりあえず成立したようだ。
文官は次にユーリに問いかける。カイマを仕留めた張本人だからな当然だ。
「エルフよ、お前があの獣人を殺害したそうだな。何故そこまでした。この国の中では殺生は重罪だと知らなかったのか」
ユーリはうつ向いて黙ったままだった。文官は声を荒げる。
「聞こえんのか、エルフ! 何故殺したのか訊いている!」
それでもユーリは答えない。文官がさらに詰問しようとしたが、オレが割って入った。
「発言をさせてください」
こんな台詞、転生して初めて言ったな。とりあえずここは下手に出た方が良さそうだしな。
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