ナゴヤはええよ
「なにかっ!! 」
あ、やっぱり怒りの矛先がこっちに来たな。まあそのつもりだったが。
「クッキー、いやクチキと申します。このエルフことユーリの狩人仲間です。ユーリとは長い付き合いで、この者の事はよく知ってます。普段は沈着冷静で思慮深いのですが、どういう訳かはじめて我を忘れて行動をしてしまい、このような状態となっています」
物言わぬユーリは、今ちょっと普段と違うと伝えたかったが通じてくれたかな。
「ふん、仲間を庇う気か。こちらは普段なぞ知らぬ。黙っているのは話すのが嫌なだけだろう、この国に襲うつもりで手引きした仲間ではないのか。失敗したから口封じで殺害したのだろう、どうだ」
ユーリを挑発して話させようとしたのだろうが、そんなことはお見通しだ、誰が乗るものか。
「ちょっと、あんまりじゃない、あたし達は拐われかけたあんた達の国民を守ったのよ、感謝しろとは言わないけど疑うなんてあんまりじゃないの」
……乗るヤツがいたよ、すぐ隣に。
「アディ、やめないか」
「なによクッキー、悔しくないの、そりゃ守ってくれなんて頼まれてないけどさ、だからって得体の知れない奴らに女の子が拐われるの黙ってみてられないじゃないの、それなのに、それなのに……」
悔しすぎて、真っ赤になって言葉ににつまるアディをなだめて、オレが言葉を続けた。
「よそ者が国内で騒ぎを起こして疑心暗鬼なのは解りますが、このクチキ=シゲオ、いや我々は、そちらの信仰する女神様に誓って、カイマ、獣人、どちらでもいいですが、奴らとは関係ありません」
オレの言葉に、ふんと鼻をならして憮然とした顔をしていた。
「クチキシゲオ?」
ずっと黙っていた女王陛下が言葉を発した。なんだ喋れるじゃないか。
せっかく話したのに、また文官を通して話そうとしている。
「クッキーとやら、お前の名前はクチキシゲオというのか」
「はい。クッキーは通り名で、クチキシゲオが本当の名前です」
「今は森にいると言ったが、その前はどこに居たのだ」
変なところに食いついたな。適当な事を言って後でややこしくなるのは面倒だから、本当の事を言っておくか。
「ここより遠くにあるニホンというところからです」
よくわからないが、どうやら女王陛下は動揺しているらしい。また文官に言葉を告げる。
「は、はあ、え、そう言えばよろしいのですか。それはどういう意味で……、わかりました」
文官が戸惑いながらオレに話しかける。
「お、おみ、ゃあ、さ、ん、どっ、きゃら、きゃーた」
意味が解らないけど話してみた感いっぱいの話し方だったので、最初判らなかったが、理解した。名古屋弁だこれ。
「なごやだなも」
オレの返事を聞いた女王陛下は、目を見開き驚愕の表情をした。あらま、そんなに驚くことだったんだ。
「陛下、女王陛下、如何なされました」
「何でもない、つづけよ」
「……は」
とは言え、話の腰を折りまくってしまったので、何の話をしていたか忘れてしまった、なんだっけ。
あ、文官もそんな感じだな。
「……つまり、あの獣人とは無関係と言いたいのだな」
あ、思い出した。奴らと仲間と疑われてたんだ。
「当然だ」
ずっと黙っていたユーリが口を開いた。オレは驚いて大丈夫かと話しかける。
「ああ大丈夫だ。すまないなクッキー、迷惑だけでなく心配までかけてしまって」
ユーリは顔を上げ文官に向けると、話し始める。
「文官殿、いや女王陛下の親衛隊の方かな、迷惑をかけたな。私の知っていることを全部話そう」
「なぜ私が親衛隊だと」
「文官らしき服を着ているが、物腰と身体つき、それとかもし出す雰囲気かな。それが武官のそれと同じなのと、女王陛下の前に立つのが板についているから、何かあったら身体を張って護る気構えからだな」
ユーリの観察眼に少したじろぐ文官に、オレは当たっているなと直感した。
「まず言っておくが、奴らとは仲間ではないし知り合いでもない。ただ知っているだけだ」
「何者だ、何を知っている」
「奴らは
「
「そして
廷内がざわめいた。もちろんオレも驚いた。ユーリが当事者だってぇ。
衛兵達のざわめきはとまらない、そりゃそうだろう、歴史の生き証人が目の前にいるのだから。
静まれ静まれと文官、いや親衛隊の人が言うがなかなか静まらない。
「静かに」
女王陛下のひと言でぴたりと止んだ。さすがだ。
「エルフよ即答を許す、そのダークボトムズとやらは来るのか」
「おそらく」
「ではこれにて閉廷する。衛兵長はすぐさま警戒体制をしき、次の命令を待て。客人は別室で詳しく話してもらおう」
女王陛下はそれだけ言うと立ち上がり、オレ達4人以外の全員が最敬礼している謁見の間を下がっていった。
どうやら風向きが変わってきたようだ。
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