そして捕まり牢屋へ
木の実を飲み込み、凝縮された[世界樹の生命力]を躯体のすみずみまでいき渡らせる。
これで森ある全ての植物の能力を使えるようになるのだ。
衣服が破れないように手首の部分から、蔓を生やし伸ばし、鞭のようにカイマを叩く。ユーリの真似だ。
「ギェェェ」
痛み、は動物の行動を萎縮させる。それは人であろうが獣であろうが一緒なのに、コイツらは違った。
まるで痛みを感じないというか、感じるけど止まらないという感じだ。
オレはようやく、カイマ達を観察することができはじめた。
「なんだコイツ、コウモリ人間なのか」
前世で観てた特撮ヒーロー物に出てくる怪人のような姿だった。
頭からオニのような角、目は瞑っている、耳は比較的大きめ、口は人と同じくらい。体格も人並みだ。
体毛は少なく、衣服らしき物は腰の辺りに巻かれている布だけで、足は裸足で人と同じ。
一番の特徴は、脇の下から肘まで生えているコウモリのような翼だろう。
獣人族は何度か見たが、このタイプは初めてだった。襲ってくる姿には知性を感じられない、人の形をした野生動物、しかも凶暴系だとしか言いようがない。
「クッキー、ユーリ、みんな避難したわよー」
アディの言葉に、オレはコイツらを追っ払うから捕まえるに目的を変えた。
「ユーリ、コイツを捕まえるからしばらく2つ相手にしてくれ」
ユーリは黙って頷くと、カイマ2つを相手にする。
妙だな、やはりユーリの様子が変だ。気にはなるがとりあえず捕獲だ。オレはカイマに向かって蔓を伸ばす。
さっきと違うのは、叩く為でなく捕まえるのが目当てなので、カイマに巻き付ける。
足首から胴体、それからバタバタさせている羽根というか腕に巻きつけて、ようやくおとなしくなった。
あと2つ。
この様子を見て逃げられるかと心配したが、そんなことはなかった。コイツらはユーリを襲うのが目的になっていると気づいたオレは全力でカイマを引き剥がし殴りつける。
「ユーリに手を出すな」
オレは1つ、そしてもう1つも蔓でがんじがらめにして捕獲した。
やれやれなんとか終わったかとひと息ついたが、それで終わらなかった。ユーリが鞭の握りに仕込んであるナイフをとりだしたのだ。
「お、おい、ユーリ」
オレの言葉を聞くことなく、普段は獲物を仕留める時に使うナイフを、カイマの胸に突き刺す。
「ユーリ、止めるんだ、ユーリッ! 」
オレの止める言葉を聞くこともなく、ユーリは他のカイマも続けて刺し、すでに死んでいるのに何度も何度もカイマ達を刺し続けていた。
──オレとユーリとアディ、それとモーリは、今、王宮の牢屋に入れられている。
この国に警察はなく、衛兵が治安担当しているそうだ。
騒ぎを知り、駆けつけた衛兵が見たのは、蔓に絡まれたカイマ3つと、それを刺し殺したエルフと羽交い締めして止めているいるオレ。そして離れたところで見ているアディだった。
オレたちは衛兵に捕まり、身元保証人となったモーリも事情を聴くため、ここに連れられてこられたところだった。
4人とも同じ牢屋に入れられているので、会話ができる。モーリに何が起きたかを話した。
「それは困った事になりましたねぇ」
話を聞いたモーリは頭を抱える。
「この国の中では殺生は厳重処罰なんですよ、どんな理由であれね。殺したのは国民でもなく、人(?)でも無いし、人命救助でもありましたが、それでもマズイですねぇ。とりあえず極刑では無いでしょうけど、どうなるかわからないですねえ」
モーリの説明で、どうして捕まったかが分かったが事態は変わらない。
「あたし達、これからどうなるのかしら」
「モーリ、迷惑をかけてすまない。あなただけでも助かるよう努力するよ」
「なあに、こんなトラブルは旅に出てるとしょっちゅうですよ。気にしないで下さい」
おおらかというか豪胆というか、こんな状況でも動じないモーリに驚いた。
ユーリはというと、牢屋に入れられてからずっと端の方で膝小僧を抱えたまま黙って踞っている。
そのユーリが激情に任せた行動をとるのは初めて見た。なにか事情があるのだろうか。
「全員出てこい、これから取り調べだ」
衛兵がやって来て、オレ達を何処かへ連れていく。取り調べ室ってやつかな、カツ丼出るかな、木製躯体だからもう食べられないけど。
狭い部屋で1人ずつ調べられるかと想像していから、豪華な裁判所みたいなところに全員連れられてきた。モーリ、アディ、オレ、ユーリの順に横一列に並んだオレ達の正面には、半2階のところに豪華な椅子が佇んでいた。その両端とオレ達の横には数人の衛兵が並んでいる。
「モーリ、ここはどこだい」
オレの質問にモーリが上ずった声で答える。
「え、謁見の間です。女王陛下に拝謁するための」
「え、ということは」
オレの質問の答えは衛兵が答えてくれた。
「女王陛下の御成りである、全員控えよ」
謁見の間の空気が張りつめてきた。
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