ほぼ女人のカーキ=ツバタ王国の災厄

「はっはっはっ、そうですか。まぁたしかに流行ってますね。ほらあそこの店にも飾ってあるし、あちらで歩いている女の子達も身につけている」


 城内に入り、モーリのあとについて行きながら案内してもらうと、おおお、間違うことなきあのビキニアーマーだ。


前世みたいに裸体に直接身に付けている姿は無いが、長袖服とズボンの上に身につけていたり、スカートの上に着けるミニスカ型だったり、半袖短パンのもある。


 タイプは様々だが、どれも金属製の様でかなり薄いつくりだ。たしかにあれでは身を守れないだろう。


 ユーリは街歩く女性達を呆れたように見て、アディは羨ましそうに見ていた。


「どうしてこんなのが流行っているのだ、意図が分からない」


ユーリの呆れ声にオレも同意した。もっとも流行りものに意図なんて無いだろうが。


「あとで話しましょう、ああここが私の店です。ただいまぁ」


 道々教えてくれたが、モーリは色々な土地に行って都で売れそうな物を仕入れてくるのを生業としていて、1年の半分以上は旅に出ているそうだ。

 普段は奥さんと年老いた両親に店を任せている。


 そのモーリがオレ達に目を付けたのは、ユーリの装備と外套服装だった。なにかピンときたらしい。


 珍しい物が並んでいるお店の一角にある、おそらく商談用の席に案内される。


モーリが奥で荷解きをしている間に、奥さんが話し相手になってくれた。


「はあ、西の森からわざわざビキニアーマーを見に来ましたか。たしかにお嬢さん方キレイですし体つきいいからお似合いでしょうね」


森の精霊数万年もの森の妖精数百年ものをお嬢さん呼ばわりするのに吹き出しかけたが、見た目は2人とも若いから仕方ないか。


「なんで流行っているんですか。失礼ながら用途としての意味が分かりません」


「あれは装飾品ファッションなんですよ。この国の親衛隊の制服の真似っこコピーなんです」


戻ってきたモーリが奥さんと代わり、話を引き継いだ。


 この国はカーキ=ツバタといい、女王が治めている王国である。

 女王をはじめ国民の大多数が女神族を崇拝、信仰をしていて、女性がわりと優遇されている。

 それ故、他国から種族問わずに女性が集まるので、男女比率が2対3で、ある意味女の国とも言える。


 女神族は争いを嫌うから武器を嫌う。だからといって国を維持するためには軍備が無いわけにはいかない。それにやはり争い事は男の方が有利だ。


 それで国の兵士は衛兵として男で編成され、女王陛下の親衛隊は女で編成されることになり、親衛隊の正装防具がビキニアーマーだというのだ。


 なんでそんな形になったかというと、争い嫌いの女神族に対して、女として護るべきところだけ鎧をつけることと、護身用の武器のみを許してもらうため最小限の装備にしたらあの形になったという。


「街の女の子達は、親衛隊の凛々しい姿に憧れてその真似をしているんです。現物を見たものが少ないので色々な意匠デザインのビキニアーマーが出来て、今に至るという訳です」


「国から目をつけられませんか」


「ファッションですからねぇ、あまりバカにするような意匠が出ないかぎり大丈夫でしょう。それはそれとしてですね……」


 オレはまだ訊きたい事があったが、モーリが話しを変えて商談に移ろうとする。


その時、外から激しい鐘の音が聴こえてきた。


最初はモーリも何事かと怪訝な顔をしたが、やがてなにかに気がついて、慌てはじめる。


「まさか、本当に来たのかっ」


 モーリは立ち上がると、奥さんと両親に店の戸締まりをして隠れるように指示すると、外に出て大声で叫びはじめる。


「カイマだ、カイマが来るぞっ! 伝説と云われていた[100年後の災厄]が本当に来たんだ、女子供を隠せー、私は東の村で被害にあってきたのを見てきたんだっ、はやくしろー」


[100年後の災厄]、何の事だ? オレがアディに問いかけると、さあと首をふる。


「ユーリは……」


オレはハッとした。様子がおかしい。


 手を握り締め肩を震わせてたユーリが突然立ち上がり、勢いよく外に出ていった。


「お、おい、あんた、出ちゃいかん、隠れるんだ」


ユーリに押し退けられ尻餅をつきながらも、モーリは叫んだ。


「アディ、あとを頼む」


アディにモーリの介抱を頼むと、オレはユーリを追いかけた。


 モーリの店は王国城壁内の大通りの1本奥にあり、ユーリはその大通りに向かっていた。


 何処に行くのかと思っていたが、すぐに解った。どう見ても怪しいヤツらが女の子を拐おうとしていたのだ。全部で3つか。大通りにいた人達は大騒ぎになっている。


「ユーリ」


遠くにいるユーリはオレの声が聞こえないようだ、ユーリは愛用の鞭を取り出すと、怪しいヤツらの1つに一撃を喰らわせた。


「ギェェェ」


殺傷能力は低いが痛檄はむちゃくちゃ高い。カイマとかいってたっけ、これで奴らの注意を惹き付け──てない、ヤツらは女の子に固執している。どうなっているんだ。


「クッキー、どうなってるの」


「アディ、いいところに。離脱抜けだして上からコイツらの仲間がいないか調べてくれ。オレはユーリとヤツらを捕まえる」


よくわかんないけどわかったと言って、物陰に隠れた。

 アディは躯体から離脱すると精霊体となって空に向かう。


 そのあいだ、ユーリは鞭をふるいながらカイマを追い払い、住民達を逃がしている。

普段は世界樹の森で狩りをして暮らしているが、ユーリは必要最低限な殺生しかしない。鞭は基本、獣を追い払う為に使っている。


 オレはというと、ユーリとは別のカイマにとりつき、住民をひっぺがして逃がしている。

木製躯体マリオネットだから咬まれてもひっかかれても問題は無いが、ユーリみたいに武器は持ってない。ここが世界樹の森だったら盟主のオレは無敵なのにな。


「お待たせ、見回したけどここのヤツらしかいなかったわよ」


「ありがとアディ、ユーリ、コイツらだけだ。捕まえるぞ」


オレはポケットから木の実を取り出した。


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