世界樹転生─異世界支配とビキニアーマー開発─

藤井ことなり

カーキ=ツバタ王国編

ビキニアーマーとは?

 抜けるような青い空だった。


 クジラみたいな雲が群れをなして流れていく、ここから見ると海みたいだな。おそらく向こうから見れば、こちらは草原の海に緑の島のように見えるだろう。


その緑の島、いや森の中にある小さな湖で商隊キャラバンが休んでいた。東にある国で仕入れた物を、西に住む連中に売りに行くそうだ。

 


「いや~、まさかこんな森の中でこんな美人さんに会えるなんてねぇ、しかも2人も」


その2人の間にいるオレは目に映らないらしい、まあ気持ちはわかる。


「あんたらなら王国で流行っているビキニアーマーが似合うだろうなぁ」


「「びきにあーまー?」」


オレの左隣にいる樹木の高位精霊ハイドライアドと右隣にいる森の妖精エルフが、声を揃えて聞き直す。


「知らないのかい、あんなに流行っているのに」


商人は2人(?)が知らないのを驚き、オレも別の意味で知らないのに驚いた。その様子を見たハイドライアドがオレに訊く。


「ねぇクッキーは知っているの、そのびきにあーまーって」


「いやまあ」


オレはどう答えようか迷っていると、商人の仲間が出発の合図を伝えてきたので、挨拶もそこそこに仲間のところに戻っていった。


 オレたちが見送って商隊が見えなくなってすぐ、ハイドライアドのアディが、ふたたび訊いてきた。失礼だと知ってはいるが質問で返す。本当に知らないのかと。


「知らないわよ、アーマーは知っているけどビキニなんて聞いたことないもの」


「私もだな。アーマーというからには鎧の類いだとは思うが、ビキニの意味がわからない」


エルフのユーリも知らなかった。


クッキーと呼ばれてるオレは、もともと日本の会社員だったが、流行り(?)の異世界転生とやらで、こっちの世界に樹木として転生した。しかもそれは世界樹候補だという。

そのあと、200年程なんやかんやあって今は木製躯体マリオネットで異世界を生きている。


2人の言葉で何となく理解した。ビキニアーマーは前世である元の世界の創造物で、こちらには無いものなんだ。なぜならビキニはたぶんこちらには無い。


「アディ、ユーリ、この世界では海水浴とか水遊びとかしないのか」


「内陸部だから海水浴は知らないけど、川や湖で水遊びはするわよ」


「どんな格好で」


アディは近くに生えてる蔓を掴むと、念を込めて形作る。蔓を操れるのは樹木の精霊らしいが、造形のセンスはいまいちらしく、落書きみたいな出来で露出の少ないパジャマのような形をつくる。


「男も女もこれよ。それがどうしたの」


オレも蔓を掴むと念を込めて、形作りをする。


「うわっ」


「きゃあ、なんなのこのイヤらしいのは。下着よりも布地が少ないじゃないの」


蔓でナイスバディの女体を型どり、葉っぱで水着を再現した。やはりビキニそのものを知らなかったか。

 ビキニは元の世界で付けられた水着の名前だ。こちらではそんな物はないのだろう。


となると何故そんなものがあって、そんな名前が付いたのかが不思議だが、今はそれよりもその形にきゃあきゃあ言ってる2人に説明するのが先だろう。


ビキニアーマーとは、元の世界での創造物で女性用の胸部と腰部に付ける鎧防具だと説明すると、2人は首をかしげる。


「そんなところだけ守る防具なんてなんの意味があるのよ、全身守ってこそ鎧でしょうが」


アディの理不尽な怒りを受けながら、ユーリに助けを求めると、


「私も納得いかないな。たしかに動きやすいのと胸と腰を守るというのは認めるが、やはり理解が出来ない」


長寿族のエルフゆえにユーリは思慮深い。それに、森の中を縦横無尽に動きまわり獲物を狩るという生活をしているので、実用重視な考えをする。


実用品でなく装飾品だと説明すると、ようやく納得してくれた。


「ねえ、それ見に行きたい」


好奇心の強いアディが提案してきた。




 オレたちがいるこの[世界樹の森]は、世界樹候補オレを中心に形成されていて、次期世界樹として森を形成して地域支配拡大を目指している。


 今のところ文明社会に接触していないので問題なく規模を拡大しているが、いずれそれを有する他種族と接触することになるだろう。


となると生物とのコミュニケーションをとれる躯体を手に入れた今、練習をかねて人のいる国に行くのも悪くない提案だった。

ユーリもそろそろ仕入れたい物があるから、つきあうという。


 商人が言ってた王国は、東に歩いて3日かかるところにある。それぞれ準備が出来た10日後にオレたちは都に向かって旅に出た。




 3日後の朝、オレたちは都の城壁前の検問の列に並んでいた。

 一応説明すると、3人とも旅人らしい格好をしている。

精霊であるアディとオレは木製躯体マリオネットに憑いて実体化して外見も生身の人間らしくなっている。その躯体に、オレが森の植物で製糸にして織った布で、ユーリが縫った服を着ている。


 ユーリはもともと肉体があるし、ヒト族以外の種族に偏見を持たない世界らしいから大丈夫だろう。 

 服装はいつも通りフード付マントに狩人らしい装備の格好だ。オレ達も同じ格好をしている。


「なにい、保証金カネがないだと、それなら中に入れる事は出来んな。帰れ帰れ」


「ちょっと何よ保証金て。あたし達は怪しい者じゃないわよ」


「ドコの田舎者だ、保証金のしきたりも知らないとは。そんな者を城内に入れたら街でもめ事が起きるだろうが」


 残念ながら外見と違う事一般常識で揉める事になった。国民でないものは、保証金もしくは保証人がいるそうだ。文明社会でカネが必要なのはドコも一緒らしい。


 強気なアディと門番が揉めていると、後ろから声をかける者がいた。


「失礼、そちらの3人の分、私が出しましょう。それで収めてくれませんか」


 小肥り中年のいかにも旅商人という風体の男が、自分の身分証明を門番に見せて、保証金と別のカネを渡す。それでようやく中に入れた。


オレが旅商人に礼を言うとユーリが、


「礼なぞ言わなくていい、そいつは旅商人らしい。なら必ず下心がある筈だからな」


旅商人はピシャリとおでこを叩きながら笑う。


「話が早い。私はこの国に住んでいる仕入れ屋のモーリといいます。あなた方は?」


モーリの問いにユーリがこたえる。


「旅の者だ。ここには見物に来た」


「見物?」


「あたし達、ビキニアーマーを見に来たの」


明るくあっけらかんとしたアディの言葉にモーリは目を丸くした。

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