27:我が強い人
神殿から自宅までの、花壇で彩られた道を歩きながら考える。
いくらなんでも、メルは寝過ぎじゃないだろうか。
やっぱりデゼラに何かされた? 本人は違うと言ったけど、そうとしか思えない。
いったい何をされて、あそこまで眠り続けるのか……。
それを知るためにはデゼラに会いに行くしか方法がない。けど……。
後ろを歩く護衛を盗み見る。
デゼラに会いに行きたければ、護衛をどうにかしなければならない。
けれども流石神殿警護隊、隙がない。
いったいどうすればデゼラに会いに行ける? 神殿警護隊と衝突しないで済むやり方はないのだろうか。
歩きながら思案していると、鼻に衝撃が走った。人にぶつかってしまった。
「ご、ごめんなさい。ぼんやりしてて……あ」
「あ」
ぶつかってしまった相手と声が揃った。
わたしがぶつかったのは、黄色のマントに白い祭服を着た茶髪の好青年――先日うちにやってきた、レオ・ラウランだった。
「聖女様! すごい偶然ですね、こんなところでお会いできるなんて」
「い、家がこの辺りだから」
「あーそっか、そうですよね! 遅くまでお疲れ様です」
この間の晩餐のことを思うとものすごく気まずい。
なのにレオはそんなこと一切気にしてない素振りで笑顔を浮かべている。
何だか……申し訳なくなった。
「それでは聖女様、お気をつけてお帰りください」
「あの……!」
立ち去ろうとするレオを、わたしは呼び止めた。
「少し、話せないかな」
*
わたしは一旦神殿の敷地内に戻った。綺麗な花壇を眺められるベンチがあるからだ。
そこにレオと並んで腰かけている。彼の陽気な表情を見ていると、先日のことを謝りたくなった。
「この前はごめんなさい。失礼なことを言って……」
「いいですよ、そんなに気にしなくても。いきなり婚約と言われたら驚くのが普通です」
そう言ってもらえると、心がずいぶんと軽くなった。
ひょっとするとレオも無理矢理晩餐に連れて来られたのかもしれない。
それとなく聞いてみれば、レオは笑って答えた。
「ラウラン家の人間たる者、いい加減身を固めろって父に散々言われてるんです。俺としてはまだ早いかなって思うんですけど、いつの間にかセルゲイさんが父と結託してて」
「それでうちに?」
「ひどい話ですよね。俺はまだ自由でいたいってのに、ラウラン家の血を絶やすなとかなんとか言って」
「それは『ミカト伝説』と関係ある?」
「大ありです」
今から約百五十年前、この世界を邪神バルガスが襲った。
バルガスは人間を食い殺す凶悪な神で、人々を恐怖に至らしめた。
誰もが怯える中、立ち上がったのが当時の聖女ミカトだ。
彼女は神メルエンテと協力して、邪神を見事封印してみせたのだ。
「尊く偉大な聖女ミカトの血を絶やすなってことです。嫌な話ですよ、子孫だからって百五十年も前の栄光を背負わなきゃならないなんて……って、すみません、聖女様の大先輩を悪く言って」
「ううん」
「今の話、内緒でお願いしますね」
「もちろん」
「――そろそろ夜も遅いですし、帰りましょうか」
言われて空を見上げてみれば、月がずいぶんと上のほうに移動していた。
わたしはレオと別れて、今度こそ家路についた。
レオ・ラウランか……。
晩餐のときは笑顔の絶えない明るい人だと思っていた。
話してみると違った。ああ見えて彼は我が強い。
何だか自分とそっくりだ。ちょっとだけ親近感を覚えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます