25:しろがねの館

 話は早いもので、サンドラ先生と十数年ぶりの再会を果たしてから二日後には『しろがねの館』に顔を出すことになった。

 通常通りであれば午後からの予定だけど、現在神殿は封鎖中。参拝者の相手をしていた時間を未来の聖女候補――銀髪の乙女たちの相手に使え、とのことだった。


 『しろがねの館』なんて、銀髪の乙女たちなんて、審査員の仕事なんて、知ったこっちゃない。

 朝のお祈りが終わったらすぐに自宅に戻って、部屋に籠城してやる。

 そう思っていたのに、『御神体の間』から出たところにサンドラ先生が立っていた。


「どうしてここに……」

「あなたは聖女だもの。お迎えに上がって当然でしょう」


 こうして、あれよあれよと言う間に馬車に乗せられ、揺られること数分。

 馬車が止まったのは、白い壁に赤い屋根の建物の前だった。


「ここが……『しろがねの館』……」


 いかにも聖女と深い関わりがあるとわかる外観は、見ているだけで不安になる。

 この中に銀髪の乙女たちがいるんだ……。それも、一人や二人じゃない。


「ぼんやりしないで」


 サンドラ先生に肩を叩かれる。


「わかってると思うけど、ここにいる子たちはみんな聖女を目指して励んでいるの。あの子たちを失望させないよう聖女らしくしてちょうだいね」


 目が一瞬光ったのを、わたしは見逃さなかった。

 怖いなぁ……。サンドラ先生も、銀髪の乙女たちと会うのも。



 サンドラ先生に案内されて、わたしは教室という、銀髪の乙女たちが座学を行うための部屋の前にやってきた。

 扉についた小窓から中の様子が伺える。当たり前だけど、銀髪の女の子ばかりだ。彼女たちはみんな同じ方向を向いて座っていた。


「あなたはここで待ってて。私が先に入って乙女たちに説明するから。呼んだら入ってきてちょうだい」


 そう言って、サンドラ先生は教室に入っていたのだけど……。

 ええ! 何あれ!


 扉を開けた途端、サンドラ先生は人が変わったようだった。

 見たことのない微笑みを浮かべて、柔らかい声で「授業を始めますよ~」なんて言っている。

 本当にサンドラ先生なの?

 でも、乙女たちがどよめくことはない。さも当たり前のような顔をして「サンドラ先生、よろしくお願いします」と挨拶している。


 ぽかんとしていると、小窓越しにサンドラ先生と目が合った。

 ……そろそろだ。


「本日は聖女セレーン様が来てくださいました」


 教室に入ると、きゃあ! と黄色い声が上がった。何だかむずがゆいというか、居心地が悪い。騒がれるほど大層な存在じゃないのに。

 けれどもそんなこと、乙女たちには関係ない。

 わたしはサンドラ先生に言われた通り、聖女らしくお淑やかに入室した。


「初めまして、セレーンです。みなさんとお会いできて嬉しいです。今日からよろしくお願いします」

「いいですかみなさん。みなさんは将来聖女となる存在です。そのためにこれまで頑張って来ました。今後もそれは変わりありません。いつも通り修練に励みましょうね」


 サンドラ先生が締めくくると、乙女たちは先程とは打って変わって「よろしくお願いします、聖女セレーン様」と優雅にお辞儀した。

 聖女らしい、というのはこういうことを言うんだろうか。

 何だかみんな、わたしよりもずっと上品に見えた。

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