21:真っ向から、そして玉砕

 朝食のスープを、のそのそと口に運ぶ。

 早く食べなきゃ朝のお祈りに間に合わないとわかっているのに、思考はどうしても別のところに向かう。


 メルがあんなに声を荒らげるなんて……。

 無理を言ったのが悪かったかな、と今なら思う。でもそれだとあのとき感じた違和感に説明がつかない。

 ――事件は終わったんだ。それでいいだろ。

 妙に引っかかる言葉だった。


 事件といえば御神体窃盗事件のことしか考えられない。

 御神体窃盗事件といえば、神殿警護隊も神官も、みんな様子がおかしかった。どこか嘘をついているような、怪しい雰囲気だった。


 考えて行きついた結論は、メルも嘘に加担してるのかもしれないってことだ。

 いったいみんなで何を隠しているのだろう。わたしだけ蚊帳の外にする理由は何?

 答えはデゼラに会いに行くことでしか得られなさそうだけど……。

 今日から護衛が付きっ切りになる。手強い神殿警護隊の目を掻い潜る自信なんてなかった。


「セレーン、早く食べなさい」


 と、ニコルが言った。

 こうなったら……真っ向から挑むしかなさそうだ。


「ニコル、お願いがあるの。デゼラに会わせてくれない?」

「駄目だ」


 即答だった。でもめげない。


「少しでいいの。よくも怪我させてくれたわねって文句が言いたい」

「そんな挑発じみた真似をしてデゼラが逆上したらどうする。却下だ」

「じゃあ教えてよ。デゼラは本当はどんな動機で御神体を盗んだの」

「……まだそんなこと言ってるのか?」


 ニコルが深いため息をついて、わたしを見据えた。


「先日の会議で言った通りだ。神の存在を信じられないから、御神体を盗んだ」

「とぼけるのはやめて。わたしにはデゼラがそんな考えをしてるようには見えなかったし、だいたい、みんな何をそんなに隠そうとしてるの」

「少し落ち着いたらどうだ。何も隠そうとしてない」

「嘘。神官たちと結託して隠し事してる」

「セレーン……危険な目に遭って気が立っているのはわかるが、そう疑り深くならないでくれ」

「疑ってるんじゃない。本当のことが知りたいだけ」


 この違和感は紛れもなく本物だ。何かある。

 けれどもニコルはわたしが神経質になったと思ってる。可哀想なものを見る目だった。


「よっぽど怖い思いをしたんだな……」

「そうじゃなくて……!」

「だが安心しろ、今日から忙しくなる。毎日せわしく過ごしていれば不安な気持ちも少しは和らぐさ」


 ああ、もう! 全然話が通じない。

 ニコルは朝のお祈りが終わったあとにお茶、夜には晩餐だと、こちらの都合などお構いなしにぺらぺらと喋る。

 ていうかそんな予定、聞いてない! 勝手に予定を作らないでほしい。


「お前に会わせたい人がいるんだ」


 聞かなかったことにしてすっぽかそうと思ったけど……信じられない、他人まで巻き込んでる。

 わたしは二つ返事で引き受けるしかなかった。

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