第二章「後継と婚約」
18:神殿警護隊の制服
上手く言い包められているようでどこか釈然としない。
会議中、神殿警護隊副隊長と他の神官を盗み見たけど、彼らはわたしと目を合わせまいと顔を伏せていた。
ひょっとして……ニコルとセルゲイ含め、彼らが裏で結託している……なんてことはないだろうか? 何かを隠すために。
メルなら知っているかもと思い、聞いてみた。
〈考えすぎだ。そんなことして何になるんだよ〉
〈それはわからない……けど、デゼラが神を信じてないなんて考えられない。あの人たちみんな嘘ついてる〉
〈嘘も何も、デゼラ本人がそう言ったんだろ〉
〈じゃあ本人が嘘をついてるってことね〉
こうなったら……デゼラ本人に会って直接確かめるしかない。
なんて考えはお見通しなのか、メルは〈何か企んでるな?〉と声を尖らせた。
〈デゼラに会いに行ってみようと思って。わたしを前にしたら本音をさらけ出すかも〉
〈やめておけよ、どんな目に遭わされたのか忘れたのか?〉
〈大丈夫だよ。神殿警護隊の誰かについてきてもらうから〉
〈誰もついてきてくれないと思うぞ〉
〈そんなことないし!〉
ニコルがわたしを騙そうとしてるんだ。神殿警護隊隊員でわたしのお願いを聞いてくれる人はいないだろう。
でも一人だけ例外がいる。メルティエだ。
わたしの独断行動に散々付き合ってくれた彼なら、デゼラのいる牢屋にもついてきてくれるはずだった。
それに……彼はわたしを助けてくれた。あのときメルティエが駆けつけなければ、わたしは今頃きっと死んでいた。
会ってお礼がしたかった。
『会合の間』から人が散っていく中、わたしはニコルを呼び止めた。
「何の用だ」
「さっき、わたしに護衛をつけるって言ってたじゃない? その件でお願いがあるの」
「言ってみろ」
「護衛する隊員を指名させて」
「なぜだ? 理由を言え」
メルティエを護衛に指名すれば、デゼラに会いに行くとき困らないし、それに……。
「護衛って付きっ切りでしょう? だったらなるべく親しい人に付いてもらいたいの。そのほうが楽しく過ごせるから」
あまり知らない人とずっといるのは気が引ける。
その点メルティエなら気まずさも何もない。我ながら完璧な作戦だった。
「絶対にとは言い切れないが、なるべくお前の希望に沿おう。誰がいいんだ」
「メルティエでお願い」
言うと、ニコルがきょとんとした顔を浮かべた。
しまった。正式名称で言わなかったのがまずかった。でもそういえば、わたしはメルティエの苗字を知らない。
「ごめんなさい、苗字はわからないの」
ニコルの顔は晴れないどころかいっそう険しくなる。
「セレーン……一応聞くが、『メルティエ』とはいつどこで会ったんだ?」
「御神体が盗まれた次の日だよ。新入りでしょ? 挨拶に来てくれたんだよ」
『御神体の間』まで、とは言わない。
「彼、すごく優秀な兵士だよ。御神体奪還にも協力してくれたし、デゼラに殺されかけたわたしを助けてくれたの。ニコルも会ったでしょ? メルティエはこれ以上ないくらい護衛に相応しい。断言する。というわけで、護衛はメルティエを推薦します」
「ちょっと……待ってくれ」
かつてないほどニコルはうろたえていた。
いったい何をそんなに困っているんだろう。頭まで抱えちゃって。
少しの間逡巡してから、ニコルが口を開いた。
「あのなセレーン、落ち着いて聞け。三つだ、三つ言うぞ」
「うん?」
「一つ、御神体が盗まれた日の夜、もう一つ盗まれたものがある。神殿警護隊の制服だ。二つ、神殿警護隊にメルティエなんて名前の奴はいない」
三つ、とニコルは言う。
「お前はあの洞窟で、一人で倒れていた」
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