16:新しい朝
わたしの朝一番の仕事は、踊ることだ。
神メルエンテに日頃の感謝と今日も平和でありますよう祈りを込めて、そして今日はお祝いの意味も兼ねて、空を舞う。
数日間、空っぽだった『御神体の間』に石が鎮座している。紛れもなく神様の宿った石――御神体だった。
メルが帰ってきた。これ以上喜ばしいことはない。今日の舞いは体が浮いているかのように軽かった。それくらい心も弾んでいる。
〈よお、セレーン〉
〈メル……〉
舞いが終わって、メルが話しかけてきた。
久しぶりすぎてどう話したらいいのかわからない。
しどろもどろになりながらも、口を開く。
〈しばらくぶりだね。その……知ってたんでしょ、デゼラのこと〉
〈まあな〉
〈ごめんなさい。警告無視して、勝手なことして〉
気まずかった。関わるなと言われたのに、関わってしまったことが。
〈構わないさ。ありがとうな、助けてくれて〉
余計なことをしたかも……なんて不安は、メルの一言で吹き飛んだ。
〈そんな……聖女として当然のことをしたまでだよ〉
〈そうか〉
〈メルが戻ってきてくれて……本当によかった……〉
メルが帰ってきたら言おうと思っていたことがある。
ずっと伝えたくて、でも言わなかったこと――。
この気持ちは墓まで持って行こうとしていた。伝える必要はないと。伝えてもどうにもならないと。
だけど、御神体窃盗をきっかけに、それでは駄目だと考え直した。
言うなら今が好機だ。でも……。
口を開いては閉じ、開いては閉じるを繰り返す。
意識すると変に緊張してしまって、なかなか言葉が出てこない。
〈ところで……体の具合はどうなんだ?〉
いつまでも煮え切らない態度のわたしより先に、メルが切り出した。心配そうな声だ。
〈怪我したんだろ〉
〈腕が少し痛むけど、動けるくらいには回復したよ。ずっと寝てたから〉
喉は想像していたよりずっと軽傷だった。発声も呼吸も問題なくできる。
あのあと、メルティエが言った通り洞窟にニコル率いる神殿警護隊がやってきて、御神体とわたしを保護した。
わたしは疲労と出血がひどくて、保護されてからの七日間、ほぼ爆睡していた。
その間に神官たちが御神体を元の場所に納めてくれたそうだ。昨夜、病室を訪れたニコルが教えてくれた。
デゼラはというと……。
〈確かに元気そうだな。でもあんまり無理するなよ。今日の会議はデゼラについてだろ? お前が行くことないんだからな〉
〈平気だよ〉
心配してもらえるのは嬉しい。けど、病み上がりといえど会議を欠席するわけにはいかない。
デゼラは今、牢屋に閉じ込められている。
わたしが寝てる間に、神殿警護隊がデゼラへの尋問を済ませたそうだ。
なぜ御神体を盗み、わたしを殺そうとしたのか。今日開かれる会議でそれが説明される。
……そろそろ時間だ。『会合の間』に行かないと。
メルに伝えたいこと、言えなかったけど……またあとにしよう。
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