13:名もなき集落にて

 ボロ板を張り合わせたような家が立ち並ぶ。誰もいないのか、人の気配がない。

 駄目元でボロ板の扉を叩き、人を呼ぶ。


「すみません」


 一件、二件と返事はなく、三件目の家を尋ねてやっと扉が開いた。

 無言で出てきたのは、睨むような顔をしたおばあさんだ。

 あまり歓迎されていない風だけど、めげずに用件を言う。


「あのすみません、ちょっとお聞きしたいことが……」

「帰りな! よそ者!」


 乱暴に扉を閉められて、わたしはその場で立ち尽くすことしかできなかった。

 まさか用件すら聞いてもらえないなんて……。


 他の人を当たろうと思い、集落の中を歩く。


「あ、すみません! ちょっとお話を――」

「ひ……!」


 運良く通りかかった人に声をかけると、今度は一目散に逃げられた。

 悲鳴を上げるほどなの? どうして――。


 ふと心当たりに気付き、わたしは自分の体を見下ろした。

 なるほど、誰も相手にしてくれないのはこのせいか。

 着ている服が普段着の白いドレスワンピースだった。おまけにさっき草原を走り抜けたから、裾が土で汚れている。

 髪の毛だって結ってないし、手櫛でとかしただけだからぼさぼさだ。

 この恰好はどこからどう見ても怪しい。


 何とかして怪しまれない方法はないか。

 一旦集落から離れて策を考える、そのときだった。


「んぐ……?!」


 突如として何者かに後ろを取られ、口を塞がれた。

 呼吸が苦しくなり、わたしは反射的に口を塞ぐものを引っ掻き回した。ごつごつした男の手だ。


「動くな」


 声がしたのと同時に、腹に何かを当てられる。それは尖っていて、少しだけちくちくした。


「わかるか? ナイフだ。動いたらぶっすりだぞ」

「……っ!」

「あんた、聖女だろ」


 嘘、なんで知ってるの……?


「首を縦に振るか、横に振るかで答えろ。刺されたくなければな」


 ナイフの先端をぐっと押し付けられ、わたしは命乞いをするかのように頷いた。


「やはりそうか……。よし、ついてこい」


 目隠しをされ、男に引きずられる形でどこかへ連れて行かれる。

 しばらく歩いたところで、海だろうか、波の音が聞こえた。

 更に歩くと、昼間のはずなのに布越しに感じる光が消えて闇に包まれた。


「ここからは自分で歩け。そのまま真っ直ぐ、ずっと真っ直ぐだ」


 いったいどこまで来たのだろう。

 ナイフは依然として背中に向けられたままだ。

 恐怖のあまり全身から汗が噴き出た。

 男が止まることはない。ひたすら歩き続ける。


 と、不意に男に突き飛ばされた。急な衝撃にわたしは受け身を取れず地面に倒れ込んだ。

 ひとまずは解放された……のだろうか。

 ここぞとばかりに目隠しを取ると、そこには――。


「メル……?」


 御神体があった。

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