132.6話 「瞞着の過去」 (リューゲ視点)


 視界がユラユラしている。




「ほら! 邪魔だよっ!」

「ごほっ!?」



 若い頃の母に蹴られている。



「ったく、ガキが……」

「ごめ゛んなさい」


「るっせぇな。黙ってろ!」

「っ!」


 今度は頬をグーで殴られる。


 小学生の頃だろう。まだ要領の悪さが目立つし。




 それからしばらく虐待を受けている光景が移り変わり見える。さながら紙芝居のようだ。






 場面がふと変わる。



「高校なんて行かせる金ありません」


「ですが、お子さんは大変優秀でして……」



「先生、僕は早く社会に出たいので、高校には行きません」


「本人がこう望んでいるので」



「そう、ですか…………」



 先生には申し訳ないが、これが最善策だ。選択肢なんて最初からあって無いようなものだ。



 視界が明滅している。



『いいな? 毎月払えよ?』


「もちろん」



『いい息子を持ったもんだ。じゃあな』



 通話が切れる。



 父は遠の昔に失踪、母は俺を産んでから、男漁りに、パチンコ、その他ギャンブルで借金まで負っている。


「これでいい」


 中卒の低い賃金で、日々を何とかしのぎながら、毎月定額母に振り込んでいる。





 瞬きすると、場所は見慣れた部屋になっていた。


 普通の部屋だ。俺にはそこまで行くのでも遠かった。パソコンで表やグラフが表示され、色んな物が床に散らばっている。



「はあ、ストレスでしかないけど、仕方ないよな」




 一か八かでの株にその他諸々の投資でかなりもうけ、人並みの生活を送れるようになった頃。


 それを知った母は、以前より高額を要求するようになり、より一層遊びふけるようになった。



 視界が切り替わる。



「やった!」


 このゲームが懸賞で当たった場面。金はあんまり無いが、運で当てた。





 視界が再びユラユラしている。




 真っ暗だ。終わったようだ。



 だが、呪縛はまだ残っている。俺が“良い子”の仮面を被っている限り、付きまとうだろう。



「この精神状態で行ったらミスしそうだな、でやんす」



 RPを忘れていた。



 気にしていないつもりでも、実は……ってことか。ここで決めよう。




 今のままか、断ち切るかを。





「こわいな……」



 昔からの刷り込みとかだろうか、母に対する恐怖と逆らってはいけないという潜在意識が邪魔をする。




《さようなら》




 そうだ。タラッタちゃんのような小さな子でも、最後は選び取ったんだ。大人の俺ができなくて、怯えてどうする。



 パチンッ!



「痛っ」



 自分で頬を叩いてみたが、なかなかいい音だ。スッキリした。



「決めた」




 母とは縁を切ろう。やり方は今日ログアウトしたら調べて、弁護士とかと相談すればいい。



 断る勇気、それがもし無くなってきたらもういっぺんビンタしよう。痛みで誤魔化しをする余裕なくする。言わば、誤魔化しを誤魔化すんだ。


 ダラダラと続く関係にいい事なんて何も無い。




 俺には仲間がいる。強くて、カッコイイ、最高の仲間が。



 それに、ぶっちゃけ母よりネアさんの方が別の方向でこわいからなー。




 霧から外に踏み出す。




 ここからが、心の仮面を捨てた、本当のリューゲのスタートだ。



 RPは仮面ではなくて、理想の生き様だから勿論続けるが。





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