132.2話 「劣等の過去」 (シロ視点)

 

 視界が点滅してる。



 これは、昔の光景?




「すごいわ! うちの子は天才ね!」

「そうだな。この歳でこんなに賢いからな!」


「やったー!!」



 お父さんとお母さんに、小学校のテストで高得点を取って褒められているみたいね。そんなこともあったわね。


 視界が、切り替わる。点滅したまま。



「見て見て! すごいでしょ!」


「まあ、すごいんじゃない?」

智彦としひこのとこの子は満点しか取ってないらしいぞ。もっと頑張りなさい」


「…………はい」



 中学生の私。そうね。この頃から、こんな感じになったわね。智彦っていうのは、叔父さんだったはず。見せなくても分かってるのに。



 視界が明滅を繰り返して、切り替わる。


 ここは何かの式の会場。何だったかは覚えていない。




明乃あきのちゃんと仲良くするのよ」

「うん」



 智彦叔父さんの娘、白山しろやま明乃。私の従姉妹にあたる人。歳は一つ上。パーティ会場で、子供同士仲良く、と別行動になった場面ね。



「はじめまして」

「はい。初めまして」


「……」

「……」



 丁寧な口調。素っ気ない挨拶だけで、この人はずっと本に視線を落としている。眼鏡を掛けているが、度は入っていない。



「えーと」

「何か?」


「いえ、何も……」

「そうですか」



 私なんて眼中に無い様子だ。むかつく。



 これ以降も特に会話一つ無く、暇を持て余したまま時間だけが過ぎていった。




 視界が、切り替わる。



「テストどうだったの?」


「これ」



 全教科の平均が85点。そこそこ良い点数。でも、



「はあ、明乃ちゃんはいつも満点取ってるのに……」

「まったくだ」


「ごめんなさい」



 チッ




 視界が、切り替わる。




「進路どうするの?」


「今のままでいく」


「そう。好きになさい」



 中三の頃。あの人は普通か少し高いレベルの学校に行ったので、それ以上ならどこでもいいというスタイルに変わっている。


 そんなに学歴で競うのが好きなのかと思ったなー。うっざ。




 視界が、切り替わる。




 暗い部屋、ステータス画面と向かい合っている。



 名前の欄に、あらかじめ決めていたのを入力している。



 “シロ”と。




 あの金持ちの家のこと、間違いなくこのゲームをやると思って、本当に些細な仕返し。使うであろう名前を使っておく。




 我ながら陰湿ね。





 視界が陽炎かげろうのようにブレる。



 黒い霧。戻ってきたみたい。皆の所にもどろう。この程度の過去を掘り起こされたぐらいで折れるほどヤワじゃない。



 今はマシになったんだから、気にする必要はないもの。



 ただ、あの人、ここではハクと名乗ってる勇者とは何となく気まずくて話せていない。



 過去より今の人間関係の方が憂鬱よ。ほんとに。




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