132話裏 予習と開戦の狼煙 (ネア視点)

 

「……ここは?」


「着きましたよ」



 昼ご飯を食べて戻ると、既に着いていたみたい。


 オリジンとおばあさん以外、まだ眠っている。私が一番乗り。



「あれ? 着いたでやんすか?」


「そうです」



 次はリューゲが。全員揃うまで待たなければいけないのが、大所帯の悪いところ。




 ここまではオリジンの謎の力で来れたけど、ここからは何があるか分からない。幸い、前来たみたいな霧は無い場所だから、いきなり崩れることはない。


 過去を見せる霧は厄介だから、戦う前にさっさと全員済ませたいけど、クロみたいになった時が大変。一人ずつ、着実に済ませていく必要がある。


 そういう面では、オリジンも詳しいのだろう。あの狭いいかだのぎゅうぎゅう詰めを断行するのさえ無ければ、まともなのに。




「皆さん揃ったところですし、分かりやすく、簡潔に諸々をお伝えします。質問は全て聞いてからでお願いします」



 考え事をしていたら全員揃ったみたい。



「最初に、相手の情報を。黒塗りの魔という、色々あって大変なことになった、魔力の素です」



 省きすぎてて要領を得ないが、私たちが使う魔力の発生源とかだろうか。



「非生物なので、ネアさんの必殺技も効果が薄いです」



 どこか自慢げに語るのは何なんだろう?



「おそらく中心にある漆黒の核を破壊か、浄化するのが最終目標ですが、中心に近づくにつれて攻撃が激しくなります」



 最終目標?



「核の破壊には必ずクロお兄様が必要になります。そのため、まずはお兄様を探し、協力するのです」



「その前に、まず皆さんは順番に魔霧に入ってきてもらいます。必ず一人ずつです」



「さて、質問はありますか?」




「……」


 手を挙げる。



「はい、ネアさん!」



「……クロ一人で何とかできない?」



「無理ですね。できてたら、今こんなことにはなっていません」



 クロと同じような立場の人がやって失敗したからこうなってるとでも言いたげ。



「…………経験者?」


「まあ、そんなところです」



「プレイヤーもいた?」


「それは答える必要ないですよね?」


「ん」



 これが普通のRPGなら、シナリオとかでそういう設定なんだろうけど、今までの感じそれは無い。私の前任者も運営側かプレイヤーの人間だっただろうから、クロも同じ可能性が高い。


 だとするとβ版で何かあった? いや、それは無い。そんなことがあれば、もっと強いプレイヤーがいるはず。負けイベントとしてならあるかもしれないけど、それならどこかしらから情報が出るはず。今回みたいな少数での挑戦でない限り。


 なら‪α‬版か制作過程のテストプレイかのどちらか。それなら情報は一切無い。



「…………」


「他に質問はありませんか?」



「はい! なんでご主人様が必要不可欠なんですか?」


「核の破壊では、核の周囲のが邪魔で、普通の人では届かないからです」



「ぶち破ればいいのでは?」



 出た脳筋。



「物理的な問題ではなく、精神に干渉してくるので、お兄様のスキルが無ければ一瞬で呑まれます」



「呑まるっていうのがどういう感じかは分かりませんが、ご主人様なら余裕ってわけですね!」


「いえ、余裕ではないです。普通の人より効くのに若干のラグがあるので、気合いで頑張ってもらう感じです」


「なるほど。気合い、いいですね」


「気合いしか勝たんってやつです」



 何かしらのスキルが防波堤となって一瞬防げるってことで良さそう。気合いでどうにかできるのかは知らないけど。



「具体的な作戦としては、ミースさんとパンタシアちゃんは聖属性のバフで浄化の付与を」



 パンタシアちゃん? 誰?


「はーい」「今はフニトユチと呼んでください」



「そういえばそうでしたね。覚えておきます」



 おばあさんの名前、どちらかが別名だった? なら二人は知り合い? 総合判断AIなら知っているのだろうか?


 いや、おばあさんの口調からして、知り合い。どういう関係性?


 気になることはあるけど、今聞くことではない。目の前のことを終わらせてからゆっくり聞けばいい。




「リューゲさんはお得意のユニークスキルで攻撃を消す係です」


「消えるでやんすか?」


「“魔”ですから」


「そうでやんすかー」



 あの【絶魔】とかいう便利そうなスキル。普通に欲しいやつ。



「他の皆さんは浄化のバフ付きの攻撃で、黒塗りの魔を削ってください」



 私、勇者、侍、シロ、マツが無言で頷く。




「さ、そんなところで、魔霧に入っていきましょう!」




 話し合いの結果、ジャンケンで決まった。勿論もちろん、私とマツは除いて。



「早速行ってきます」



 侍が霧に入る。霧の中は見えないが、言われた通り、数秒間深呼吸をしているはず。時間がかかれば警戒、という手筈。



「すぐ終わりました」




 見たには見たらしい。すぐ終わったそう。私よりは早かったから、それなりの苦労はしているが、嫌な記憶はほとんど無いということになる。





「……あれは?」




 向こう側に黒い、巨大な柱のようなものがそびえ立っている。霧も心なしか、そちらに少しずつ動いている気がする。



「まずいですね。お兄様が呑まれています。皆さん、巻きでお願いします!」



 相変わらず説明不足だけど、緊急事態だとは伝わったのか、全員体を強ばらせている。



「……暇」

「ですねー」

「そうさね」


 マツとおばあさんも私に同意している。おばあさんは既にここに来たことがあるらしい。



「ご主人様、待っててくださいね! 顔面にストレートぶちかましますから!」



 気合い十分なのはいいこと。


「……」



 クロが呑まれたと言っていたけど、呑まれるという感じが分からない。

 無事だといいけど……。


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