129.8話 真祖と嫉妬
シロから小さな
「そう。吸血鬼だったのね」
「ただの吸血鬼と一緒にしないで。私は最強の真祖。この姿の前に敵はいないわ!」
「死になさい!」
「踊るわよ!」
ドロースが
「なんの!」
「ちっ!」
バク転し、距離を取ることで避けられる。
「はあああぁああぁぁ!!」
「ら゛あ゛ぁああ!!」
ドロースが身に纏う紫の炎がより濃く、燃え上がる。シロも負けじと霧がまた溢れ、暗い夜の力も滲み出てくる。
シロの振るった大鎌が美しい円を描いてドロースの首に迫るも、三叉槍の分かれ目の部分で受け止められる。
「単純なのね!」
「ふん! 守るので精一杯のくせによく言うわね!」
「舐めるなよ、ガキが!」
左側で受け止めながら、右足で回し蹴り。紫の炎にバフがあるのか、通常の回し蹴りとは比べ物にならない程の速度だ。
「効かないわ!」
正面から受けたと思われたが、
「【超音波】よ!」
キーーンと空気を震わせる高音がドロースの鼓膜に攻撃する。耳から少し血が出てきている。
「っ! 【孤高の王】!」
擬似的な王冠がドロースの頭にのり、貫禄のある金色のオーラを纏う。
紫の炎と赤い髪と相まって、アクセントカラーのように際立って輝いている。
「何が孤高よ。あんたのそれは、誰からも見放された、ただの孤独じゃない」
「貴様っ!」
「キャハッ! 図星じゃない!」
紫色の炎が更に増し、瓦礫にも火がついたのを見て、シロは人の姿に戻る。
「しっ!」
「うおっと」
ドロースが三叉槍を投擲するも、横にゴロゴロと回転して避け、大鎌を回収する。
「【半月斬り】!」
「【
拾いながら上に大鎌を
周囲の瓦礫は吹き飛び、地面が衝撃で割れ、フニトユチの結界にも少しヒビが入る。
「ほいっと」
「【流星槍】!」
ドロースが三叉槍を回転させながら投げる。
「隙あり、よ!」
胴体だけ蝙蝠の群れにして槍を通過させ、距離を詰める。
「な!?」
「この程度っ!」
振るわれた大鎌を、ドロースは素手で真剣白刃取りのような形で止める。
「捉えたわよ【嫉妬の泥ぬ――」
「【紅炎拳】!」
「チッ」
横からの攻撃に後退して避ける。受け止めていた刃は動くので胸元に小さな切り傷がつく。
避ける直前まで足元がブクブクと泡立っていたので警戒してシロも少し下がる。
「余計なお世話だったのに」
「それは悪かったな。でもオレは嫌な予感がしたぜ?」
「あっそ。寝てて助けるなんてカッコつかないけどね」
「ハッ! ナイフ咥えて決闘に勝つ奴がいるんだ。倒れたまま援護するぐらい普通だぜ」
「その人もあなたも変な人ね」
「かもな。どっこいせ。大丈夫そうだからオレは大使館に帰るわ」
倒れていたアマゾネスは立ち上がり、紫の炎が立ちのぼる戦場を後にする。
「待ってあげたのだから、共闘すれば良かったのに」
「ふんっ! もう決着はついてるから不要よ」
「へえ?」
「ピンときていないようね。私が今まで積極的に倒しにいってないのも気づいてなかったの? その気になれば特攻まがいのことで倒せたんだけど」
「ハッタリね」
「なら見せてあげる。【霧化】」
蝙蝠の群れになるのと同様に、体が霧になり、ドロースの周り一面を覆う。
「くっ……!」
霧が刃を形成し、四方八方から絶え間なく斬りつける。
致命傷は何とか三叉槍で防いでいるが、それでも出血量が多く、遂に膝をつく。
「この通り、本来の力が万全に使えれば、私は無敵なんだから!」
霧が元のシロの姿になる。
「フ」
「何?」
「フフフフフフフフフッ! アッハヒャッヒャッハ!!」
突然、ドロースが狂ったように笑い出す。
「どいつもこいつも、理不尽な暴力、圧倒的な力、恵まれた生まれ、天に見込まれた才能、全てを覆す幸運」
「?」
「ああ! 羨ましい! 恨めしい! 妬ましい!」
「急に何なの……?」
「さぞ、借りものならざる己の力で運命をねじ曲げるのは愉快でしょうね!」
「何言って――」
「私には何も無い! ただ恨むしか、ひたすら嫉妬を抱くしか無かった!」
「――惨めね。見てられないわ。トドメを刺してあげる」
「こんな世界、壊れてしまえ! 【嫉妬の悪魔】!」
先程の変身とは異なり、ドロースの体が裂け、中からより巨大な蛇のような悪魔が現れる。
〈あぁあ゛ぁぁアぁあ゛あァあ゛!!!!〉
“それ”は完全に理性を失っている様子。もはや人間でも、悪魔でも無い、何か不完全な物体だ。
「チェックメイトよ、【血ノ翼】」
周囲に散らばっていた血が集結し、シロの翼となり、“それ”の頭上まで高度を上げ、大鎌を掲げる。
「偉大なる女神、ヘカテーよ、我が終末の雄叫びに応じ、闇をも呑み込む夜を明けさせよ、〖デイブレイク〗」
一面を覆っていた夜がシロの大鎌に集う。夜が無くなったことで、太陽が差し込み、シロを照らす…………前に、
「はあああああああああぁぁぁ!」
大鎌が振られ、“それ”は縦に真っ二つになり、それでも残った攻撃の余波が周囲一体を吹き飛ばす。
日が差し込む。
「はあ、制約解除タイム終了ね。疲れたー」
制御していた血の翼も消え、地面に落下する。疲労が大きいのか、大の字で動かない。
「……し…………ね…………」
三叉槍が迫る。半身になっても湧き出る殺意のままに、片腕で投擲したのだ。
キンッと細剣で受け止めたのはタラッタ。近くに飛ばされていた細剣を拾って攻撃を察知し、弾いた。
「お母様」
「………た………らっ」
「もう、傷つけないで――」
「………た?」
「さようなら」
「え…………」
タラッタがその剣で、母親の頭を貫いた。
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