129.7話 子と友
シロとフニトユチの背後で水柱が立つ。
「ちっ」
ドロースが操っていた水が地面に落ちる。
「?」
「やはり神能ではなかったさね。一体どういう仕掛けかは分からないけど、これで勝てるさね」
「なめないでちょうだい。【嫉妬の悪魔】」
人型だった体が、長い蛇のような形となる。それはまさに龍といった大きさで、鱗が蒼々と鮮やかに輝いている。
「海の怪物、リヴァイアサン。有名な伝承だけど、まさか実際に対面するとは思いもしなかったさね」
「リヴァイアさん? コミカルな名前ね」
〈死になさい! 【海龍の咆哮】!〉
極太の水流が、リヴァイアサンとなったドロースの大きな口から放たれる。
「女神ヘカテーよ、灰燼と化せ〖スカーレットフレア〗」
深紅の焔が水流を蒸発させ、その勢いを削ぐ。
が、
〈その程度!〉
焔は呑まれ、水流が二人に迫る。
〈【海龍の咆哮】!〉
先程水柱が立って空いた穴から、
二本の水流は正面からぶつかり合い、衝撃で元々ボロボロだった建物が吹き飛ぶ。
「相殺するなんてやるわね。あ! リューゲ!」
「おまたせでやんす!」
タラッタにしがみついていたリューゲがシロの前に飛び降りる。
〈わらわらと……っ!?〉
キンッと硬質な音が響く。
「ドロース、今回は
〈……スパシア〉
白銀の細剣を手に現れたのは、丸眼鏡を掛けた、紺色の長髪の女性だ。
「今までも殆どダメでしたが、長い付き合いだし、この国を思ってのことだと自分を納得させていました」
〈…………〉
「ですが、どのような事情があろうと、国中の水源を枯らしたのは庇いきれません」
〈そう、ならいいわ。みんな、殺して、全部奪い尽くしてやるわ。残念ね〉
そう言って空中でとぐろを巻く。
「ひっでぇ極悪人じゃんか、着いてきてよかったぜ」
「レネフ殿、着いてきていたのですか……」
「よく言うぜ。気づいてたくせに」
「まさか。王国の大使にそのような危険なことさせませんよ」
「ハッ、どうだか」
瓦礫を蹴って入ってきたのは褐色肌の灰目の女性。
「こちらの味方ってことでいい?」
シロが現れた二人に問いかける。
「そうです」「オレもだ」
「なら、リューゲ、あれやるわよ」
「了解でやんす。フニトユチさん、あっしらを少し守ってくれないでやんすか?」
「いいさね」
〈さっさと死になさいな!〉
〈させない、ですっ! 〉
それぞれの尻尾がぶつかるが、タラッタの方が小さいのもあり、押されている。
「【蓮撃】」
「【紅炎拳】!」
「女神ヘカテーよ、守護しろ〖スペースバリアー〗」
横から細剣の突き、炎の拳が飛ぶ。フニトユチは、急に動かなくなったシロとリューゲを守る結界のようなものを張る。
〈邪魔よ! 【嫉妬の紫炎】!〉
紫の炎を身に纏い、攻撃を薙ぎ払う。
〈ぴゃっ!?〉
「くっ……【悪魔狩り】」
「ちっ。【野生の闘争心】」
吹き飛ばされて人間に戻るタラッタを尻目に、スパシアは白金のベールを見に包ませ、レネフからは緑色のオーラが滲み出てくる。
「はあぁぁァァぁ゛ぁ゛あ!!」「らあぁあ!!!!」
〈うざったい!!〉
二人の渾身の一撃はドロースの尾と激突し、火花を散らし、互角に押し合う。
〈どいつもこいつも、仲良しごっこを見せつけて!〉
「くっ……」「重っ!?」
紫色の炎は激しさを増し、二人を押し始める。
〈そんなに私を一人にしたいか!!〉
「そういうわけじゃ…………」「性格も重いのかよ」
〈はあ゛ぁ!!!!〉
遂にドロースが押し切り――
「【縁寄せ変化】、」
〈【
再び大海蛇となり、灰色に発光させたおでこで加勢する。
その
「女神ヘカテーよ、戻せ〖リグレッション〗」
フニトユチの声が響くと、ドロースが元の人間の姿に戻る。
「ちっ。厄介ね。まあ、もうボロボロだし意味は無いのだけど。来なさい、トライデント」
砂埃舞う瓦礫から立ち上がり、何処からかトライデント、または、
「終わらせましょう」
倒れた三人、そして結界の中で目を瞑っている二人を守るフニトユチに視線を巡らす。
「それはこっちのセリフよ」
「でやんすね」
目を開けるシロとリューゲ。
「あっしは多分倒れるので、引き続きこの結界はお願いするでやんす」
「分かったさね。でも大丈夫?」
「ふんっ! 条件さえ整えば、私一人で十分よ。あの獣人に負けてた頃の私とは大違いだからね!」
シロが結界を通り抜ける。
「いくでやんすよ! 【神前の祈り】!」
リューゲが結界内で
〈はいはーい! ニュクスでーす!〉
「どうかこの地に夜を」
〈分かったわー。あ、ここね。【夜の
軽いノリだが、ここ一帯が暗くなり、夜となる。
神聖な光は消え、リューゲが倒れる。
「お疲れ。後はこの私に任せなさい! 」
外套を脱ぎ捨て、ドレスが
そして、大鎌を掲げる。
「【制約解除】」
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