七章 黒幕(仮)不在

129.1話 残された者達とオリジン (三人称視点)

 


「マツ様、落ち着いてください」


「落ち着いていられますか!」


「……うるさい」



 場所は三本皇国元革命軍アジト、ネアと合流したマツ達はクロの失踪に歯がゆい思いをしていた。



「スセソル様! 緊急招集状でございます!」


「分かりました。すぐ向かいます。わたくしは離脱しますが、どうかご武運を」



 そう言い残して、足早に立ち去る。



「ええ……あっさりしてますね」

「……ファザコンは……簡単には治らない」



 呆れながら見送る面々。


「どうします?」

「……クロを追う」


『少しお待ちください』



 機械音声のような淡白な声を聞き、声のする方を向く二人。



『失礼しました。通常音声に戻すのを失念していました』



 そう言って目を瞑る白髪の白いワンピースを着た、どこか浮世離れした女性。



「あ、あー。聞こえますか?」



「ええ、まあ」

「……誰?」



「初めまして。わたくしは総合判断AIの、いえ、“元”総合判断AIの通称オリジンです」


 軽くワンピースの端をつまみお辞儀する。



「知り合いですか?」

「……知らない」


「ゴホンッ! 兎に角、私はクロお兄様のサポートとして来ましたのです」



 露骨な話の転換をしたオリジンであったが、ネアがいぶかしげに尋ねる。



「……クロのとこじゃないの?」


「お兄様の所に行っては意味がありませんから。…………そんな顔しないでください。ちゃんと説明しますよ」



 不審者を見るような目つきで睨んでいたので、少し焦りながら弁明を始める。



「お兄様が相手取ろうとしているのは、“黒塗りの魔”というものです」


「へんてこりんな名前ですねー」

「……黙って聞いて」

「ほいほーい」


「元々は――話すと長くなりますから大事なところだけ掻い摘んで話しますと、私が長時間黒塗りの魔の近くにいる、あるいは呑まれると色々面倒なことになります」


「……」


「黒塗りの魔は倒すとかはできませんが、黒塗りの魔たらしめている漆黒の核を破壊、もしくは浄化することでいい感じに収まります」



「……クロの触手みたいのは?」


「あれも黒塗りの魔です。核以外は破壊は出来ないので浄化で削ぐしかありません」



「……信用できる証拠は?」


「少しずつ私の髪色が黒くなります」



 オリジンは自分の髪をつまんで見せる。



「……真っ白」


「そのうちです」


「……証拠になってない」


「そこら辺説明するとながーくなりますからね。とりあえず今の貴方達では太刀打ちできないので、助っ人を頼みましょう。着いてきて下さい」



 先頭に立ってフワフワと浮きながら進んでいく。マツは素直に、ネアは渋々追う。




「そうだ、喧嘩しないでくださいね。謝るぐらいの気持ちでお願いしますよ」



「一体誰なんですか……」

「……人による」



 ネアは返事をしながら、チャット欄を見つめ、何かを思案している。



{この敵はボクの問題だから、君たちは関わらないでいいよ。覚悟を決めるために抜けるけど、別に嫌だったわけじゃないからね。中々楽しかったよ。今までありがとう}




「…………誰かが誘導した?」




「どうしました?」


「……なんでもない」



「そうですか。あの人地味に速いですし、置いてかれないようにしてくださいね」


「ん」



 引っかかるものを覚えながらも、早足でオリジンを追う。




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