128話 決意と決別

 


 称号に“人神の継承者”ってあったのはそういうことか。それなら、俺が背負うべきものだな。



「決めたみたいだね?」


「ああ。これは俺の問題だ」


「ひゅー。かっこいー」



 パチンッと指を鳴らす乾いた音と同時に景色が変わる。



「ちょっと待ってろ」


「いいよー」



 黒塗りの魔を相手にするのにあいつらを巻き込むつもりは無い。俺だけで解決する。それが誤解していた父親に対する礼儀であり、償いでもあるから。




 一言だけ残していくか。


 クランのチャット欄に送信。そして脱退のボタンを押す。最終確認の表示が出てくる。



 短い間だったが、中々楽しかったな。癖の強いメンツでわちゃわちゃできてよかった。別に今生の別れって訳でもないし、ゲームしてたらどっかでまた会うだろう。



 脱退。これでよし。



「それで、肝心のお手伝いとやらは何?」


「もう少し感傷に浸ってもいいんだよ?」



「……」


 無言で睨んでいると、肩をすくめて話し出す。


「素晴らしい決断をした君にプレゼントだよ」



 そう言って、銀色の装飾の無いシンプルな腕輪を渡される。



「これは?」


「ログアウトしてる時に体を保護してくれる、僕特製のアイテムだよ」


「へー」



 かなり便利そうだ。


「そんな感じで、頑張ってねー」


 手を差し出してくる。握手を要求してるのか。良い物をくれたし、握手の一つや二ついいだろ。


 差し出された手を握――



「ストップだよ☆」


 握ろうとした手首を誰かに掴まれた。たなびく金髪、聞き覚えしかない声に、キラキラとしたエフェクトが舞いそうな笑顔。



「師匠!?」


「やあやあ☆ 久しぶりだね☆」



 死んだと思ってたら生きてた師匠だ。本当に生きてたのか。



「何故でしゃばるのかな?」


「それはもちろん、我らが皇帝陛下とわたしの弟子の繋がりを絶とうとしたから止めただけだよ☆」



 すっかり忘れてたが、皇帝さんと盟約を結んでたな。それを消そうとしたのか。気をつけねば。



「分体風情が僕相手に時間稼ぎできるとでも?」


「本体はもう準備してるからね☆」



 うわー、蚊帳の外。まあ、今は下手な戦火に巻き込まれるのだけはごめんだから良いけど。



「分かった分かったー。大人しく引き下がるとするよー。ジェニー以外の繋がりは絶てたしね。またね、クロくん」



 そう言って、指を鳴らして消えてしまった。


「ふう、こわいこわい☆ じゃあね、弟子よ☆」



 ブワッと風が舞い、師匠も闇夜に消えてしまった。残されたな。


「寒いなー」


 地球でいうところの、北極だからむしろこの薄手の格好で来てるのがおかしいんだが。そこは高レベルの特権と考えよう。


 まずは黒塗りの魔を探すところからか。夜で暗い上に、少し遠くを見るとまた黒い霧がこちらにも広がってきている。戦闘痕からするに、ここはネアと戦っていた所だろう。


 貰った腕輪をつけ、クランに所属している証であった、輝きの消えた赤い宝石の指輪を放る。



 意図せず俺が叩きつけられた所にいったが、もうどうでもいい。




 さっさと見つけて倒さねば。現実のやるせない死に様の分まで仇討ちとしてね。


 霧のあるところに入る。


 霧で何も見えない状態のまま、方角も分からず適当に歩き続ける。




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