127話 手紙と邂逅
なるほどね。あの時母さんが言ってたエゾギクの花言葉は“変化を好む”か。だからなんだって話だけど。病状が良くなりますようにってことかな。
「
調べながら待っていると、姉さんから手紙を手渡される。白い封筒、白い
「これは?」
「黒
どういうことだ?
「じゃあ、渡したから」
姉さんがいつもと違って真剣な面持ちだ。どういう手紙かを知ってるようだ。
封筒を開け、中身を読んでみる。
{
これを読んでるのがいつの季節か分からないので時候の挨拶はやめときますが、いかがお過ごしでしょうか。自分の息子に宛てたものだから、マナーなんて知りません。
早速ですが、これを読んでいるという事は黒塗りの魔に迫っていると思います。
今まで黙っていましたが、というかサプライズとして言っててもう知っているかもしれませんが、俺はAlternative・World・Onlineの制作に携わっています。ゲーム内で色々と場を整える役割としてです。わざわざここにその冒険譚を語るのはやめておきます。
黒塗りの魔に関する詳細は、ゲーム内で「ソフィ、約束を果たせ」と呼びかければ何とかなるはずです。
ここまでは欲しいであろう情報を書いておきましたが、ここからは俺の勝手な自己弁護です。読み飛ばしても構いません。
この手紙が渡っているという事は、相変わらず自分の子供への接し方が分かっていないことになります。何か嫌な思いをさせているかもしれません。ごめんなさい。
最後に一つ、父さんも母さんも、凛と光を愛しています。どういう状況になっているかは推測できませんが、どうか、そのことだけは覚えていて欲しいです。
父、
…………空回ってんだよ。全部、噛み合ってねえよ。
「言いたいことは言わなきゃ伝わんねぇだろうが」
接し方が分かんないとか、知るかよ。
「謝罪なら直接言えよ……」
赤いエゾギク、紅葉の栞、そんな物俺や姉さんは用意してない。なら、誰が渡したなんて、明白だろうが。何で気づかなった! 気づけていたら、追い出すようなことしなかった。そうすれば家族が壊れることは無かった!
「俺も、父さんも、どっちもアホだよ! クソッ……」
パジャマの裾で頬を
姉さんの部屋のドアを開ける。
「光くん?」
「…………姉さんは、父さんがゲームを制作してて、俺の知らない間に母さんのお見舞いに行ってたのも知ってたの?」
「……ごめん」
「なんで!!」
姉さんが教えてくれればあんなことにはならなかった。
「本人から言った方が良いと思って……」
「でも、二人が死んでも言わなかったじゃん!」
「言ってたら、光くんがもっと自分を責めると思ったから……」
いつまで子供扱いすれば気が済むんだよ。
「でも、隠したままよりはずっと良かった」
「ならどうしろって言うのよ! 今更昔に戻って言いに行けって言いたいの? 全部終わって、こうすれば良かった、ああすれば良かったって悩んだのは光くんだけじゃないんだよ!」
「でも……!」
「光くんの分からず屋!!」
姉さんに突き飛ばされ、ドアが勢いよく閉まる。姉さんなんてもう知らない。急に逆ギレしやがって。
もういいや。手紙に書かれていたことをやるためにログイン。
「ソフィ、約束を果たせ」
「ようやく呼んでくれたね、クロくん?」
目の前に黒と金色の長い髪を七つに結っている赤眼の女性が現れた。
「…………」
「僕はソフィ・アンシル。ソフィちゃんと呼んでおくれ」
怪しい女だ。信用してはいけないと本能が警鐘を鳴らしている。
「そんなことより、黒塗りの魔に関する情報をさっさと寄越せよ」
「せっかちだねー。君のお父さんそっくりだよ」
るっせーな。
「父さんなら死んだよ」
「へえ……?」
まずい。何だこの
「ふぅ、失礼。少し考えたい事ができたから、手短に話を進めるよ。黒塗りの魔は……成り立ちから話すのも長くなるね。うん。黒塗りの魔は君のお父さんが仕留め損なった獲物だよ」
「運営がわざわざ手を回すのか?」
「そこら辺は成り立ちから話さないといけないから割愛させてもらうよ。まあ、兎に角、君に託した黒塗りの魔への対抗法が君の切り札って訳だよ。君が黒塗りの魔を取り込み、制御できれば万事解決っていうことさ」
運営と聞いて理解してるあたり、そっち寄りの存在なのか? 何となくプレイヤーとかではない感じだし。
「そんな感じで、黒塗りの魔の近くで深化すればきっと上手くいくさ」
「雑だな」
「そうだね。でも、一つだけお手伝いをしてあげよう」
「お手伝い?」
かなり上から目線で腹が立つな。
「クロくん、君はこれからどうするつもりだい?」
「そんなの……」
ネアと合流して、全員で黒塗りの魔を倒して……
「ちなみに、君のお父さんは、ここでは人神、クーロだったよ。流石親子。ネーミングセンスまでそっくりだ」
人神、ね。
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