123話裏 「諦観の過去」(ネア視点)

 


「きもい」、「こわい」、それが人生で一番と言っていい程聞いた言葉。昔から妙に記憶力が良く、頭の回転も早かっただけなのに。



「ちっ」


「……」


「何よその目は!」


「……別に」



 親からの罵倒なんて日常茶飯事だった。昔のそんなものを見せられても特に思うことは無い。


 絶望の記憶なんて仰々しいものではない。






 まばたきをして目を開くと、場面は学校になっていた。頭の回らない同級生達が私の周りを囲んでいる。



「お前、生意気なんだよ!」

「そうだそうだ!」

「ちょっと頭が良いからって調子に乗りやがって!」


「……ちょっとじゃない」


「ナメてんのか!」

「うぜえ!」

「そうだそうだ!」



 男子小学生三人が寄ってたかって華奢な女子を囲んでいるなんて恥ずかしい。


 勿論白馬の王子様なんているはずもなく、自分で乗り切る。



「……暴行罪として……警察に被害届出していい?」


「なっ!」

「警察!?」

「ぼーこーってあれだろ、父ちゃんが痛いって言ってるやつ」



 少し揺すっただけで逃げ出す小学生。当時の私も小学生だけど。




 絶望の記憶とやらを探してるのか、又はトラウマになっている可能性も考慮して適当に見せているのか、どちらにせよ、私の心を折るのは無理。




 そんな過去、とっくの昔に乗り越えている







 視界が揺らぐ。凍っていて不安定な地面に手を着き、立ち上がる。どうやら戻ったみたい。



「……誰かいる?」



 相変わらず黒い霧が立ちこめていて、何も見えない。



「あ、無事でしたか。マツでーす」

「わたくしも居ます。ネア様は絶望の記憶を見たのですか?」


「ん」



 今の言い方からするに、この二人は見ていない様子。二人の性格から考えると、おそらく絶望の記憶は人の嫌な記憶、または他者の幸福と比べて自分が劣っていると自覚している人の記憶を見せる効能。



「……クロは?」


「ご主人様はまだおねんねしてるようです」

「霧でどこにいるかも分かりませんがね」



 あまり動かない方が良いかもしれない。寝そべっているクロを踏んづけてしまうかもしれない。




『スキル【輪廻りんねぬし】のアーツの非表示状態が解除されました』



 常に使っているから慣れで解除されるけど、戦闘中に解除されるのは辛いので嬉しい。


「……ステータスオープン」





プレイヤーネーム:ネア

種族:輪廻人めぐらしびと

レベル:59

状態:虚無

特性:変人

HP:5900

MP: 600


称号:天賦の才・外道・殺戮者・機械的性格・輪廻の主・神に至りし者・試練突破者・禁忌を犯す者・死者の使役者・未練を持たぬ者



スキル

U:輪廻の主・チェンジ・限定神化


R:魔眼9・高速思考4・恒常的虚無・死神の加護


N:風魔法10・火魔法9・成長促進(微)5・杖術5・毒耐性4・環境適応(微)4・気配感知3・解剖3・急所づき3




 スキル

【輪廻の主】ランク:ユニーク

 君は選ばれた。超越せし力の持ち主に。

 其は不可侵の権力、能力、すなわち権能。

 自由に命を作り替え、時には外法すらも許される。

 嗚呼、どうか世界を魑魅魍魎の園にはしてくれるな。



 外法

 其の壱【彼岸花ヒガンバナ

 生物に彼岸花を咲かせる。視界に二十秒間入れる必要がある。


 其の弐【無命歪曲むみょうわいきょく

 命無い物体を自由に動かすことができる。


 其の参【自変改じへんかい

 自分すらも変えてしまう。






 ありがたい。戦いの幅がより広がる。


 それにしても、クロが遅い。勝手に勘違いしていたかもしれない。クロは過去を割り切ったのではなく、過去から目を逸らしていたのかもしれない。そうじゃないと、ここまで時間は掛からないはず。


 いつまで掛かるか分からないから座って待ってよう。

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