122話 氷山と異常気象

 


 土砂降りの雨音が聞こえてくる。朝っぱらからテンションだだ下がり。色々済んだし、ログインするか。一日経ったから着いてるかな?



 視界グルグル〜




 自分の部屋の天井だ。キレイだな。起き上がって外に出ると、船頭に坂本さんと、ネアが居た。



「おはよー」


「……おはよう」

「ようやく起きたぜよ!」


 若干使い方違う気がするが、気にせず現状を聞こう。



「そろそろ着く感じですか?」


「もう少しかかるぜよ。少し大陸寄りに進んでおったからのー」



「なんで大陸寄りに?」


「……ロリの故郷に行くため」



 そういえばそんな用事もあったな。



「肝心のタラッタちゃんは?」


「……もう皆行った」


「え!?」


「……大丈夫……おばあさんが着いてった」




 フニフニさんか。確かに俺とマツを騙すほどの幻術とか使ってたし戦力的にも保護者的なポジションとしても十分だ。



「む! そろそろ氷の海域に入るぜよ。船内に入りんさい!」



「氷の海域?」



 パラパラと様々な色の雪が降ってくる。明らかにおかしい光景、それでも虹色の雪だ。幻想的で見蕩れてしまう。



「入るぜよ!」


「あ、はい」



 坂本さんの声で我に返り、急いで船内に入る。すると重い物が船にぶつかっている音があちこちから聞こえてくる。



「……ひょう


「うわ、本当だ」



 窓から二人で外を覗いてみると雪と同じくカラフルな雹が落下してきているのが見える。



「これが魔雹まびょうですか。実際に見たのは初めてです」


「!?」



 ソルさん!? しゃがんで覗き込んでる俺の上から柔らかい感触がする。おっっっっだろう。うん、間違いない。まさかこんなシチュエーションが俺にも舞い込むとは。



「……どいて」


「? 分かりました」


「……すけべ」



「異議あり!」



 俺の上にのっかったソルさんを、勝手に退かせたネアに少し不満を覚えたが、それ以前にこのまま言わせっぱなしだとよろしくない。俺は“すけべ”という言葉で喜ぶ変態ではないのでちゃんと訂正させてもらう。



「今のは明らかにすけべとか関係無いでしょ。どうしようもないし、反応する前にそっちが終わらせてそれはもはや名誉毀損で訴えれるレペルだ」


「……鼻の下伸びてた」

「すみませんでした」



 これは敗訴だ。状況証拠とかそんな感じのやつで圧倒的に勝てる要素が無い。



「採取して来ますね!」



 ソルさんが空気を読まずに興奮した様子で出ていってしまった。痛くないんかな?



「あー、坂本さん大丈夫かなー?」


「……操縦席……屋根ある」



 なるほどね。うん。話題尽きたな。



 いつまでも眺める訳にもいかないので適当な椅子に座る。ネアはまさかのここで寝た。いや、ログアウトかな?



「ご主人様、何ですかこれ?」


「いたんだ?」


「少し前にログインしまして」


「ほーん」



 丁度入れ違いか。それかネアがログアウトするのを見計らってたのかもしれんな。仲悪いのは早々改善しないだろうし。




「それで、これは一体……?」


「魔雹ってやつらしいよ」


「ほえー」



 大して興味無いだろ。聞くなや。



「あ! 氷山ですよ!」


「え、本当?」



 窓に近づいて再び覗き見ると、そこには氷山があちこちにそびえ立つ光景。この中を進でるのにぶつかった衝撃が無いという事は、坂本さんの操縦の腕がとんでもなく良いということだろう。



「沈まないといいですね」


「大丈夫やろ」




「そういえば、最近変な声が聞こえるですけどどう思います?」


「医者に聞け」


「でも現実では聞こえませんよ?」


「ならスキルだろ」


「そんなスキル無いです」



 だろうな。指示してくれるスキルとかならワンチャンあったかもだが。



「未知の敵とか」


「それですかね?」


「いや、知らんて」




 適当に会話を挟みながら窓の外を見ていると、雹が止み、一面灰色の霧に覆われる。今度は何だ?



「そろそろ着くそうです」



 ドアからサッと入ったソルさんがそう呼びかけた。坂本さんからの伝言だろう。折角だからこの霧についても聞いてみるか。



「この霧って何か知ってt――」



「この霧は魔霧まむです。灰色から黒色に変わっていきます。お父様がおっしゃるには、黒色の霧は人の絶望の記憶を、灰色は物体を“魔”に変質させる性質を持っているそうです」



「そ、そうなんだー」



 まだ質問の途中だったのに遮って早口で返された。一応聞き取れたが、兎に角やばい霧ってことか。でも、名前決めた人、何でも“魔”ってつければいいと思ってるてらいがある。それを知ってる魔王は経験したということかな。


 それにしても何か黒色の方の効果が先日壊れたお面のスキルと似ているな。



「人が魔人になるってことですか?」


「そうです」



 俺も魔人になれるんかな?



「……霧?」



 ネアが戻ってきた。ソルさんにさっきと同じ説明をしてもらおう。



「説明よろしくー」


「お任せ下さい」



 頭の良いであろうネアが何でも知ってるソルさんと何か議論を繰り広げて始めたので、マツと外を眺める。霧で何も見えない。









 しばらくすると船が止まった。やっと着いたようだ。もう昼ご飯も食べたので元気満タンだ。




「行くどー」


「おー!」

「お、おー」

「……」




 黒い霧を浴びながら、俺、マツ、ソルさん、ネアの四人で、遂にその地を踏む。坂本さんは元々連れて来てくれる役割だし、お留守番だ。



 こうして無事に着いたが、先程言っていた絶望の記憶とやらは湧いてこない。


「ウッ!」


「何も無い、のかな?」


「何も見えませんね」



 右隣に居るのはマツか。ぶつからないように声で位置を把握しなきゃいかんな。てかマツの隣のソルさん、うめき声だしたよな? 大丈夫か?




「ッ! ……クロ」


「ん?」



 左隣はネアか。把握。そしてネアまで呻き声。



「……【魔眼】使わない方がいい」


「ほほう?」


「……目がおかしくなりそう」


「おっけー」


 良かった。パッシブ系を使ってない無駄がこんなところでいきてくるとは。という事は、ソルさんも魔眼でやられた感じか。



「はぁはぁ、皆さん、魔霧がそろそろ体に巡った頃ですので、気をつけてください」


 なるほどな。絶望の記憶は今からくるというわけね。身構えてれば問題は無い。



 どっからでもかかってこい!



「あ」


 何かが――――



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