121話 行き来と図書委員さん
「じゃ〜ね〜」
「手伝いありがとう」
「バイバーイ」
BBQを終え、そろそろ行こうという流れになったのでここで姉さんと沙奈さんとはお別れだ。転移魔術で戻るらしい。俺もそれ欲しい。
船が動き出した。手を振っているので振り返す。
「じゃあ一旦落ちるから」
「多分みんなそうでしょうね」
確かに。まだ誰も
個室もあるらしいので自分の所へ行き、ログアウト。
さて、今日はこのコンビニの牛丼を冷えたまま頂こう。
「いただきます」
ウマウマ。ウシウシ。まだ夏で暑いしこんぐらい冷えたものの方が丁度良い。
姉さんはまだ食べてないようだが、ちゃんと食べるかな? ゲームしてて食べないってこと普通にやりそう。
八月ももうじき半ばになる。
「一生夏休みがいいな……」
ずっとゲームしてたい。
「ごちそうさまでした」
軽く洗ってプラゴミにぶちこむ。休憩終了。ログインや!
「うそーん」
「本当じゃ、ぜよ!」
無理に語尾つけんでええわ。着くのは明日ぐらいにならしく、やることが無い。かなりの速度出てるはずだけどやっぱり遠いんだなー。
娯楽も無いのでログアウト。
完全に手持ち無沙汰になってしまった。明日まで入らないどこう。今までの経験則だが、ゲーム内の空腹度はログイン中のゲーム時間に応じて変化してると思う。つまりインしなければ明日の朝も無しで大丈夫だろう。
流石にインしてなくて餓死してるとかは無いだろうからな。
勉強する気にもなれないし、寝るか。昼夜逆転モードON!
寝れんわ。目がバッチリ冴えてる。スイカにボロくそにされた憂さ晴らしに近所のゲーセンに走って行くか。
世間体がよろしく無いか。普通に自転車で行こう。
「あっつー」
夏の日差しがインドア派の俺の肌を突き破らんと攻撃してきやがる。これ家でゴロゴロしてた方がよかったかも。
「行くか」
ここまで来て戻るのは無しだ。自転車に
クソ熱い風を正面から浴びながら自転車を走らせる。住宅街でこの時間帯だから人通りも少なく、ビュンビュンとばす。
到着。自転車を停めてゲーセン内に。入った途端、恒例の爆音が鼓膜を殴るように揺らす。防音がすごいんだよなー。この音で外には聞こえんからな。
適当にメダルでもやるつもりだが、その前に何かいいのがあるかもしれないし、クレーンゲームから見て回ろう。
「ほぇー」
Alternative・World・Online公式のぬいぐるみがある。そんなのいたんだな、初めて知った。
あるのはイケメン風の明らかに魔王っぽい格好のミニキャラと、中性的な優しそうな顔つきの神々しい格好をしたミニキャラ。そして公式マスコットと紹介文に書いてある、メロンからごつい腕と足を生やした謎の生物だ。
名前は順番に初代魔王テキ、技神イレモ、チョマ・メンロらしい。こいつら誰ともゲーム内で会ってないぞ? てか最後のメロンに関しては居るかすら怪しい。
姉さん欲しがるかな? 取ろうかな?
「くっ」
置いてある台の横の両替機に貼ってあるポスターを見ていたが、すぐ横で苦戦している人が居る。
これは小さなぬいぐるみなので山のようになってる所から崩して取る形のやつだ。割と他のと比べて取りやすいはずだ。
「あっ」
この人、よく見たら図書委員の人やん。眼鏡かけてないから気づくのに遅れた。相変わらず名前は知らんけど。それにしてもどこかで見たことある気がするんだよなー?
今の集中してる顔とか特に……。誰だろう?
「あぁ……」
ぬいぐるみの頭を撫でて終わった。もしかして下手くそかな。
お、両替行ってますカードを挿し込んだ。…………俺の目の前だ。ストーカー扱いされんかな?
「え!?」
「どうも」
幽霊でも見てるかのように驚いてる。手をワタワタさせ始め、キョロキョロし始めた。そんなにやましいことしとらんやろ。
「偶然ですね。では」
後ろを向き、全速力で逃げようとしてる。それはダメだ。
「ストーップ!」
「ひぎっ!」
駆け出そうとしたところを、腕を掴んで止める。流石にこれで退散されてはこっちが申し訳なくなる。
「な、なんですか?」
「どれ狙いですか?」
腕をガッチリ掴んだまま聞く。好きを見せては逃げられる。
「えっと………………メンロくんです」
「任せてくださいな」
趣味悪いと言いたいが、姉さんもメロンにハマってるしきっと今若い女性での流行りなんだろう。
ポケットから100円玉を取り出して入れる。そこそこ近所のゲーセンでかなり昔から通ってるのでベテランと名乗ってもいいほどだろう俺の手腕をお見せしよう。
慎重かつ大胆に、しかし狙いとの座標はミリ単位で見て、機械の反応のラグまで考慮に入れ、アームを狭き門に通す。
「おぉ…………」
感動のあまり声が出せないようだ。ふふん!
アームが遂にぬいぐるみの高さまで下りてきた。これは勝ったな、風呂は遠いからトイレ行ってくる。
かっこよくメロンだけ取り出し口に残して立ち去ろう。一回やってみたかったんだよな。
「じゃあ、これで」
「え? あ」
「あ」
立ち去ろうとしたが、これはやらかした。運良くというか、どれだけ図書委員さんがこの台に溶かしたのか、ぬいぐるみが全体的に前に寄っていて一気に
「半分貰ってくれません?」
「え、いいんですか?」
「こんなに要りませんし」
「確かに」
微妙なダサさだ。取れなければ普通にダサかったが、取りすぎても締まらない。匙加減って大事だな……。
「ありがとうございます。意外と優しいんですね、クロさん」
「そうですかね……………………はい?」
待て待て待て待て待て待て。Why? 知られてる?
「では今度こそこれで失礼します」
先程と同じように、だが、落ち着いた足取りで立ち去ろうとしている。
「ストップ」
「………………何ですか?」
俺はかっこよく立ち去るの失敗してる。だからこそかっこよく立ち去らせてたまるか!
「謎を残したまま立ち去ろうとしないでくれません? 誰なんですか?」
「誰だと思います?」
質問を質問で返すなと教わるだろ!
今はいい。考えろ、今まで俺がゲーム内で会ってきた中で眼鏡をしてる人は居ない。つまり目の前の顔から少しキャラクリで弄った顔のはず。大幅にずらすと感覚がずれそうだし。
この悩み多そうで一人で
「ハクさん?」
「正解です」
うわっ、つい昨日殺し合ったばっかじゃん。気まずい。流石にゲームと現実を混同させたりして襲いかかってくるとかは無さそうなのはいい事だが。
「ではホントのホントに失礼します」
「あ、うん」
ここで引き止めるのは無しだろう。俺もこの大量のぬいぐるみをリュックに入れてメダルコーナーに行くか。
図書委員の人が廊下の一角を通ろうとしてるところが視界の端に映る。
「そこは ……遅かったか」
何故かそこだけ妙に滑る。一部分だけで転ぶほどでは無いが、普通に歩いてると驚く。
《きゃっ!?》
懐かしいな。あそこで毎回母さんが驚いてたな……。そんな光景はきっと二度と見れないだろう。
「メダルゲームではしゃげる気分じゃなくなったなー」
何もしてないが、こういう無駄に過ごした日も偶にはありだろ。
何もしてなくはないか。この大して要らないぬいぐるみ取れたし。キーホルダーとしてつけれそうだが、こんなに要らんだろ。だって何個だろう……10、11、12。12個もだ。これで半分ってのが凄いよな。
それぞれのキャラ1個ずつ確保して他は姉さんにあげよう。
さて、帰るかー。
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