120話 BBQと定番のアレ

 

 ワイワイと、釣りをして寝ている坂本さんと、年なのか昼寝してるフニフニさん以外で焼肉を頬張って盛り上がり、各々近くの人と会話を弾ませている。


 かく言う俺も、



「うまいっ!」

「美味しい〜」


 楽しんでる。ほっぺたが落ちそうなほど美味い肉だ。何の肉だろう?



「ふふふ」


「何?」


 マツが急に笑い出した。


「いえ、美味しそうに食べるところ表情がそっくりでして。プフッ」


「そうかな?」

「かな〜?」


 意図せず姉さんと顔を見合わせる。こんなリスみたいに口に入れてないと思うんだけど。



「そろそろ場も温まってきましたし、定番のアレといきましょう」



 マツが立ち上がって全員が注目する。やはり海といえばアレよな。



「スイカ割りです! こちら、スイカ、どん!」



 パチパチパチと、小さな拍手がまばらに送られると、マツは後ろからスイカを取り出す。現実のスイカより一回りほど大きいが、高レベルだと粉々になるのを配慮してくれたのかな。



「最初誰からやりますか?」



 よし。ここはいっちょバシッと決めてきますか!



「やりまーす」


「ご主人様ですか。目隠しします。木の棒は無しで素手で割ってください」


「うーい」



 目隠しされ、そのままグルグル回る。レベルが高く三半規管も強くなってるのか、あんまり目が回らない。素手で割るのは木の棒を使うまでもないからだろう。


「ここからは皆さんでご主人様の手伝いをしてくださいね。ではスイカを置きますよ」


「バッチコーイ」




 こちとら地元で粉砕のこうちゃんと呼ばれてたんだぞ。舐めるなよ! 嘘だけど。



「すたーとです」



 マツの気の抜ける合図を聞き、とりあえずマツの声の方へ歩く。恐らくあの辺にあるだろう。



「……右」


 ネアに従って右に向きを変えて数歩。



「ジャンプ、です!」



 タラッタちゃんのお茶目な指示に従ってその場でジャンプ。



「後ろに下がって〜」



 姉さんの言う通りにするも、そろそろ指示を安定させて欲しいと思い始めた。



「しゃがんでください」



 ソルさん!? あんたまで巫山戯ふざけるんですか。俺は空気読める男なのでしゃがんであげる。



「ご主人様、左に滑り込んでください」


 へいへい。ここまできたら全部従ってやんよ。


「右でやんす!」

「左よ!」


 リューゲとシロが被ってるくせに言ってることが違う。どっちだ?


「早く動かないと――」


 ソルさんが何か呟いてる。もう少し大きい声でお願いしたい。


「結局どっち?」



「どっちでもいいよ」



 沙奈さんが答えてくれたが何も答えになってない。どっちに行ってもいいぐらい大きかったっけ?


「ま、いいや。ならm――」



「いっだあぁぁぁぁあぁあ゛!!!!!!」



 ガンッと頭に重い衝撃。垂れてくるすごい量の液体。大量出血で死ぬかもしれんな。




「ブフフッ……」「……ッ」「キャハハハ!!」「ドンマイでやんすー」「わわ、大丈夫ですか?」「アッハハ、ッッッヒ〜」「うわ、普通に痛そう」「だ、大丈夫、です!?」




 目隠しを外す。心配してくれたのは声的にソルさんとタラッタちゃんだけ。リューゲと沙奈さんは感想みたいなこと言ってたからいいけど、他は全員笑ってた。処す。その前に、元々スイカ割りだったんだが、



「マツ、スイカどこいった?」




「ブフッ、ご主人様の頭にありますよ」



 意味がわからない。何故叩こうとしたスイカが頭にあるのか。念の為海の水の反射で自分の顔を見てみる。



「これ、血じゃなくてスイカなのかよ」



 触ってみると血の匂いはしないし、ベタベタした。スイカだな。


「スイカ投げたの誰?」



 これはキレていい。



「実はそのスイカ、敵意を向けてきた相手に攻撃するスイカなんですよ」


「ダウト」


「本当です! ちゃんと戦略的に足元や胴体狙い、ため技までする優れものですよ?」



 言い訳にしか聞こえず、他の面々の様子を見てみると、頷いてやがる。本当なのか。



「シャワー室ありますから使ってください」


「あいよ」



 なんか怒る気も失せたわ。くっ、よくも東欧のこうちゃんをコケにしやがって。誰だよ。



 スイカまみれになった頭のまま船に戻る。



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