119話 異常な空とナデナデ


 適当に森の中をほっつき歩いてるが、全くそれらしい草を見つけれてない。



「本当に黄色い草なんてあるの?」


「あるはずなんだけどね〜」



 何を根拠に言ってるのか分からないが大丈夫かな?



「そもそも何に使うのさ?」


「お薬の材料だよ〜」



 危なくない草なんだろうか。



「あったよ!」



 サさん、言いにくいから沙奈さんで呼ぼう。別行動で探していた沙奈さんが見つけたようだ。声のする方に二人で歩いていく。



 着いたが、何故か沙奈さんは谷を覗き込んでる。谷の下にあるのか。どれ、取ってこようではないか。



「取ってくる。とう!」


「お願いね〜」

「あっ」


 助走つけて谷に飛び込む。着地できるか微妙だが、俺の無駄に高レベルなステータスがあるし大丈夫だろう。いざとなれば【飛翔】もあるし。


 空中で下を見ると確かに黄色い草が一掴みだけある。その周りには謎の赤い二又に別れた物質がある。硬そうだけど岩だろうか?


 空中で体を捻って足から着地する。高所からの落下でドスンッという轟音と砂埃がたったが特別問題は無い。






「ギキュゲゲ」「ゲルゴキヤ」「ギャゴグギョ!」「ゲゴ………………






 オワタ。謎の赤い物質は、地面から少し飛び出てた巨大蟹のハサミの先っぽだったようだ。次から次へと蟹が湧いてくる。急いで足元の草を抜いて、


「【飛翔】」



 逃げる!



「ギギゴュゲッ!!!!」「ゲグギョゲ………………



 蟹の声が届かない高さまで飛んで下を確認。うわっ、ワラワラと崖を登ってきてる。姉さん達なら大丈夫そうだが、俺には良い対処法が無い。上空まで飛んで待っていよう。






 これどこまで行けるんだろう? 宇宙とかまで行けたりして。雲を抜ける。意外と雲が地上に近い気がする。現実だと飛行機とかで行けるような所だろうけど、そこまで高くは来ていないはず。



 不思議だけど解決できる疑問でもないし無心で高度を上げる。



「!?」



 突風、暴風、乱気流、そんな単語が当てはまりそうな風が全方向から俺の体を吹き飛ばす。


「ちょっ!?」


 風にグチャグチャに揉まれながら一瞬風が止んだ。


「助かっ――」



 上からとんでもない風が俺を下に押し返す。


「――ッ!!」


 雲を下に突き破り、墜落していく。【思考加速】のおかげで状況は理解できたが落下速度が速すぎて体を動かすことはできない。



「ふんっ!」


 何とか【飛翔】で横に飛んで落下は免れた。危なかった。下手したら普通に死んでた。



 下を見てみると姉さんのせいか谷だった場所は跡形もなく消し飛んでる。蟹も全滅したようだ。降りよう。もう空はこりごりだ。



「大丈夫だった〜?」


「まあ、なんとかね」


「流石姉弟きょうだいね。落下の仕方と復帰の仕方が全く一致してたわ」



 まじか。姉さんもやったんだ?



「結局どうなってるんだろうね〜」


「本当何なんだろう?」



「それより例の草は落としてない?」



 そうだった。それが目的だったんだ。掴んでた左手を見る。



「…………」


「無いのね」


「でも向こうの方に飛んでいくの見たよ〜」



 ナイス姉さん。姉さんの指した方角へ走る。後ろから姉さん達も着いてきてるが、これは俺の失態だから申し訳ないな。




「どこだ!」



 森から出てしまった。そんなに遠くに行くかな? いや、結構高い所から落としたから飛んでいってもおかしくないか。




「……どうしたの?」

「おかえりでやんす」

「今いいところだから静かにして! ほら、あんたミスしないでよ?」

「いいところ、です!」

「なんて緻密な作業なんでしょう。実務演習の方が簡単ですね」


「ご主人様、おかえりなさーい」



 とんでもなく精巧な砂のお城が出来上がりそうだな。全員で作ってたのか。何か最後の作業なのか旗をてっぺんに刺そうとしてる。



「ん?」


「見つかった〜?」

「うわ、すご」



 後ろの二人が追いついたようだが、そんなことは今はどうでもいい。すごい言いづらい状況になってる。



「あ〜、不笑草わらわずそうみっけ〜」



 そう、姉さんが言った目当ての草は、豪華な城の旗として使われそうになっている。



「……この草いるの?」


「そうなんだよ」



「え……?」



 ほら、タラッタちゃんがおもちゃをとられそうな子供みたいに目がウルウルしだしちゃったよ。どうすんだ、これ。



「代わりにこれあげるから返してくれな〜い?」


「うわー、すごい、です! どうぞ!」



 姉さんがどこからか取り出した虹色の草と交換で返してもらった。魔女なだけあって変な草いっぱいあるのだろうか?



「……クロ、誰?」



 ネアが耳打ちしてくる。確かに初対面だから紹介しとくか。



「こっちの魔女みたいな方が姉でーす」


「リンだよ〜。よろしくね〜」


「…………」

「あっ、あの時の人でやんすか」

「初めまして。私はご主人様のメイドです。お義姉様」



「メイドさんなの〜!? すごい〜」


「そうです。エヘヘ」


 マツと姉さんは意気投合してるようだが、リューゲのセリフが気になる。



「私はリンの友達の“サ”。よろしくね」



 沙奈さんが自己紹介をした。聞くチャンスは逃したか。


「……よろしく」

「よろしくでやんす」

「よろしくお願いします」




「ねえ、リン?」


「うん〜?」



「知り合い?」




 グッジョブ、沙奈さん! 気になるところを聞いてくれるなんて。そんな所を尊敬してます!



「この前のイベントでちょっと戦ったんだ〜」


「……」

「でやんすねー」



「へぇー、リンが撤退した時のあれか」



「なるほどね。そんな事があったんだ」



 気まずくてネアが無言になるのも納得だ。



「できた、です!」




 会話に混ざっていなかった三人は城を完成させていたようだ。俺、いやお父さん、見て見てと親に自慢する娘を見てるみたいで嬉しいです。



「すご〜い!」「芸術と言っても過言では無いわね」



「あ、そろそろ昼ですし食材持ってきますね」



 マツが船に戻っていく。砂の城は本当にすごいが、ツッコミどころと気になるところを聞こう。



「まずこの謎に凝った内装ってどうやったんだよ?」


「……私のスキル」



 ん〜〜〜、スキルの無駄使い!



「なら次はこの草何、姉さん?」


「それはね〜、千切ると爆発する草だよ〜」



 物騒だな!?


「ひぃ!」「大爆発草ですね」「おっかない、です!」


 ソルさんは博識やなー。





「最後に…………童子切安綱はどこ?」




「……」「うっ――」



 ネアは目を逸らし、タラッタちゃんは唸った。すっかり頭から抜け落ちてたが、さっきの蟹で武器がもう布都御魂ふつのみた以外無くなったのを思い出したんよ。



「えっと、折れちゃった、です」


「……鍛冶師に……直させてる」



 俺には武器が長持ちしない呪いでもかかってるのか? そろそろ布都御魂も……ってコト?!



「あんまり使う機会も無かっただろうから気にしなくていいよ」



 気にしてるみたいなのでナデナデしちゃう。寧ろこっちが癒されるわ。



「ほわー」

「……」



 何だよ、その目は。変態を見る目で見つめるな。


「皆さん、BBQバーベキューの準備終わりましたよー」



 マツが手を振って呼びかけている。BBQだと!?



「遂に陽キャになってしまったか……」


「……その発想が」


「うるさいやい!」



 その先は言わせない。わちゃわちゃとみんな騒ぎながら集まり始める。


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