118話 戦闘スタイルとあの二人


「くっ……」



 逃げている俺の後ろから、リューゲの追い込まれたようなうめき声が聞こえた。


「あっち行けっ!」


「助けてくださいでやんす!」



 何とかリューゲを囮にしたい。その隙に俺もあののんびり砂のお城を作っている輪の中に加わりたい。




「仕方ないでやんすね。【金属手刀】でやんす」



 もしや迎撃しようとしてる?



「せいっ!」



 バキッと良い音がして巨大な蟹が真っ二つになった。なんだ、普通に倒せたのか。嫌な予感は気のせいだったのか。



「ギグゴキュー!!!!」

「ギュルゲゴー!!!!」



 二つになった蟹の死体が再生して、二匹の巨大な蟹になった。なるほど、こういうタイプか。せめてサイズが小さくなればよかったんだけど、完全にそのままのサイズで増殖する感じね。



 嫌な予感、大的中!



「逃げるんだよー」

「置いていかないででやんす……」



 森の中に逃げ込む。俺に続くリューゲは未だに手が鉄みたいにピカピカしてる。こいつの戦闘スタイルって見たことなかったけど手刀が武器の近接派だったっぽいな。珍しい戦い方だ。




「ハァ、何か打開策無い? 【持久走】」


「ハァハァ、あったらやってるでやんすよ」



 だろうな。一応バテ対策のアーツを使ったけど何とかしないとジリ貧だ。




「あれ〜? こうくんだ〜。やっほ〜」

「……? あぁ、リンの弟くんね」



「逃げてっ!」




 呑気に挨拶してる場合ではない。一刻も早くこの巨大蟹を撒かねばいかんのだ。たとえ姉さんとその仲間が現れても。



「我はほむらを纏う者、〖エンチャントブレイズ〗、我は嵐を纏う者〖エンチャントストーム〗、【チェイン】」



 姉さんの仲間の人が腰から二本の片手剣を抜いて、それぞれ火と風を纏わせ、同時に剣を振るう。斬撃はそこで消えることなく、斬撃の端から再び斬撃が繰り出され、それが高速で繰り返されてあっという間に巨大蟹に命中。



 斬撃は止まることなく蟹の体中を切り刻み、燃やし、風が炎を大きくする。そのまま巨大蟹は細切れになった。クソ強いな、この人。



「どうして姉さんがここに? あとここではクロでお願い」



 リューゲはいつの間にか逃げやがってここに居ないし、偽名でいいよな。



「ん〜とね、この島にあるらしい不笑草わらわずそうを探してるんだ〜」


「私はその付き添いね」



 どこかで見たことあると思ったら沙奈さんでは?


「二人はここでの名前は?」



「リンだよ〜」



 そういえば前も聞いたな。そのまんまだって思ったんだっけ。



「私はサ」


「……?」


 どうした? 途中で言い淀むほどの酷い名前なのかな?



「カタカナ一文字で“サ”が名前だよ」



 ネトゲあるあるの変な名前の人か。しっかりしてそうな見た目の割に意外とお茶目だ。これも一種のギャップ萌えというやつなのだろうか。



「――――ギゲョグワ」



「え?」



 それが誰の発した驚きの声かは分からないが、それどころではない。あの蟹、細切れになった状態からジワジワと再生してやがったみたいだ。話してる隙に結構治ってやがるし、細切れになった分とんでもない数に増殖しかけてる。




「うわっ、キモ。リン、よろしく」


「は〜い! 〖ザ・ゼロ〜〗」



 一部の蟹が消え去った。それならいけるかもしれないが、いかせん数が多い。



「なら〜、〖エンプティ〜リップル〜〗」



 姉さんがそう唱えると巨大な蟹は再生途中の残骸も含めて全て消え去った。さっきのやつの広範囲バージョンか。直訳すると空虚な波紋ってところか。かっけぇ。



「すっご」

「お姉ちゃんは魔女だから〜」


「近づかれるとポンコツを発揮するけどね」


「うっ」



 まあ、魔女が普通の近接メインの人とタイマン張れたら逆にこわいからね。別にそこまでできる必要はないと思う。



「助けてくれたお礼にさっき言ってた草を探すお手伝いをするわ」


「ありがと〜」



 家族といえど、礼儀を疎かにしてはいけない。恩には恩で返さねばならぬ、それが武士道なり。


 …………誰やねん。デカい蟹に追いかけ回されて疲れてるのかもしれんな。




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