113話裏 酒呑童子とタラッタ (ネア視点)




 どちらも一歩も引かない白熱した戦い。でも、じわじわと老人が押しているように見える。


 共にスキルも使わず、無言で攻撃と防御をしているけど、一つだけ決定的な差があった。




 表情。




 老人は余裕があるかのように、軽く笑みを浮かべながら剣を振るっている。対して鬼は必死なのが伝わるほど顔に力が入っている。



「チッ」


「もうしまいかの?」


「まだだ。これは使いたくなかったが……」


「出し惜しみしていると死ぬぞ?」





 まだ鬼にも切り札があったみたい。




「【神格化】」




 深紅の後光が溢れ出した。禍々しかった殺気に神々しい何かが混ざりあい、赤と金のオーラを纏い始めた。



「なるほどのー。神となったわけか」



「ああ。ここからは一味違うぜ!」



 拳を構える鬼神。流石に老人も分が悪いだろうし、手を貸した方がいいかもしれない。



「【一騎当千】、神薙流秘奥義・神砕き」



「【阿修羅】【酔拳】」



 老人から紫の力の奔流が吹き出し、上段の構えをしている。鬼神は三面六臂さんめんろっぴとなり、酒を大量に飲んだ。


 これ、私が入れる余地が無い。



 紫のオーラと、赤と金のオーラがバチバチとぶつかっている。冷や汗が出てくるほどの気迫。



「しっ!!!!」

「破っ!!!!」



「……っ!?」



 一振りと六発が同時に激突し、踏ん張っていた私も吹き飛んだ。何とか着地できたからよかったものの、下手したら今のだけでも死んでたかもしれない。視線はずっと向けたまま準備完了の状態で維持できている。


 ここぞという時まで溜めておきたい。



「はぁ!!!!」


「ふんっ!」



 老人が押され始めた。速度もパワーも鬼神がグングンと上がっている。何かのスキルか、神になった影響か。



「ケケケッ! 神とはこれほどか! 面白いっ!」


「破っ!」



 もうダメだ。目が追いつかない。多分あの老人も目は追いついていない。感覚だけで攻撃を何とか捌いてるように見える。



「【心眼】、神薙流奥義・鴉雀無声あじゃくむせい



「なかなかやるな。だが、」



「ぐっ……」



「隙ありだ」



 遂に拮抗が崩れた。老人が腹部に強烈な一撃を浴び、ここからでは見えないほど遠くまで吹き飛んだ。流石に死んだはず。



 となると……



「次はお主だ」



 やっぱり。これが鬼神に効くかは分からないけど、やってみるしか道は無い。


「……輪廻ノ外法其の壱……【彼岸花】」



 溜めたおかげでいつもより花の咲く速度も量も良好。



「うざったい」




 鬼神は自分の体に咲いた彼岸花をブチブチと引き抜いていく。その度に体が抉れるが、一瞬で再生している。



「多いな」



 致死的な攻撃のはずなのに時間稼ぎにしかなっていない。稼げても無駄に生き永らえるだけなのに。



「これを抜き終わったらしっかり生まれたことを後悔させてやるからな」



 いっそ自殺した方が楽かもしれない。幸い、自決用のアイテムは懐に入れてある。



 〈――――星兜を被り、鬼を討つ〉


 上空から声が聞こえる。



「【童子切り】ッ!」



「な!?」



 一閃。空から人影が降りて、鬼神が縦に真っ二つになる。鬼神も気付けたけど、彼岸花が邪魔で防げなかった。



 こんな形で役立つとは。


『レベルが上がりました』『レベルが上がりました』『レベルが上がりました』『レベルが上が………………




「お久しぶり、です」



「……ロリ?」




 タラッタとかいうロリ。魔王城での修行は終わったと解釈してよさそう。


「あっ……」



「…………」


 クロが持っていたはずの童子切安綱が砕け散った。


 色々聞きたいことはあるけど、全員で情報共有した方が早い。私は無傷だけど、他はそうではないだろうし一旦革命軍のアジトに戻る。



「よかったら乗る、ます? 【縁寄せ変化】」


「……龍?」



 〈違う、です! 大海蛇シーサーペント、です!〉



 シーサーペント、確か架空の生物だったはず。見た目は龍。蛇と龍が似てるからそういうものだろうけど。そもそも龍ではなく竜しか見てないので龍自体いない可能性もある。



 〈どうぞ、です〉



「……ん」



 移動が楽なのはいい事。遠慮なく乗る。クロ達は上手くやれただろうか。



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