103話 神薙流と剣神
距離を離して
「む? ……小僧、黒川
!?
「知ってるけどそれが何かな?」
「あやつの孫か…………」
黒川尚雄、父方の祖父の名前だ。知り合いか?
「
「何? そうじゃったか……。別れぐらいしておき……いや、そんな殊勝な関係では無いか」
何だ? 仲良しってわけではないのか?
「小僧は……ちがうか」
「何が?」
「…………知らぬなら良い」
よく分からんが、かなり時間稼ぎができてる。この調子で会話だけでもたせたい。
後ろから誰か近づいてる。マツ、ではないな。マツは【魔力感知】には引っかからないし。
「【斬鉄】」
背後から俺の首を狙った剣撃、
「【パリィ】」
上手く弾いて防ぐ。
「ちっ!」
老人から目を離さないように注意したまま後ろに少し視線を向けると、紫の髪をまとめた浴衣の侍、ハクさんのところの人か。
「君は?」
「ヨザクラです。ハクさん達の仇討ちに来ました」
全く心当たり無い。完全に人違いだ。
「心当たりないんだけど?」
「ハクさん達はこの山の辺りで倒されました」
「それだけでボクが倒したと決めつけるのかい?」
「そうですね。強いて言うなら剣士としての勘もあります」
その勘、役に立ってないよー。今すぐ捨てた方がいいぞー。
「桜か」
「お爺様ですか!?」
どうやらこのお二人は家族のようだ。お爺様って、かなり古風なお家なのか?
待って、これ一体二になっちゃった感じ? ヤバいヤバい。
「お爺様、どうかこの者を倒すのは私にやらせてください」
「ケケケッ! いいぞいいぞ。ここで観戦しておるから下手な真似するんじゃないぞ?」
「素人に負けませんよ」
「……それにしても儂の孫とあやつの孫が戦うとは何の因果か、ケケケケッ」
一対二は免れたようだ。助かった。まずはヨザクラさんを倒さなきゃな。
「お爺様とは違って一つしか奥義は使えませんが、貴方を倒すには十分です」
「それは楽しみだよ」
あの意味不明な奥義がポンポン来ないなら安心だ。何とか凌いでカウンターで倒そう。
「【明鏡止水】、【紫電纏い】、
あっ……無理だわ。文字通りの千の斬撃だとしたら対処しきれない。
「【真・鼓舞】【剣神憑依】」
緑のオーラが広がり、布都御魂が輝く――
『肉体の操作権を剣神
――目にも止まらない剣捌きで相手の斬撃を全て斬り伏せたようだ。
「神使いの荒い少年だな。相手が人間だと申し訳なくなってくるな。オレが本来出てくる幕では無いんだからな。ほれ」
一瞬で距離を詰め、一閃。
「くっ!」
すごい。とんでもない速さの斬撃でヨザクラさんを圧倒している。だが、一撃では倒せなかったな。大丈夫か?
「しっ」
「ッ……!」
俺(建御雷神)がヨザクラさんの防御の隙間を掻い潜って首を切断。流石剣神。全然大丈夫だった。
「ハァ、桜には後で稽古をつけねばならんな」
老人が溜め息とともにそうボヤいている。
「オレ相手によくもった方だぞ。優しくしてやれ」
本当にそれな。剣の神相手に一撃で終わらなかったんだから十分立派だ。褒めて伸ばすべきだと思いまーす。
「名乗っておらなんだな。儂は
「二つの流派の師範か。人間にしては風格があるわけだ」
何かすごい人らしい。よく分からんけど。
「裏でやっとる神薙流では、その名の通り神を薙ぐための技を教えておる。桜も神薙流では儂の弟子じゃ。奥義が一つしか使えないとはいえ、あのような醜態を晒したんじゃ。稽古ですむだけ有難い話なんじゃよ」
それ、何か国家機密とかじゃない? 俺が聞いちゃっていいやつ?
「…………神を薙ぐと言ったか?」
「うむ。まあ、儂も神を相手にしたことはないからの。昔からの伝承のようなものじゃよ」
「そうか。ではやるとするか」
「ケケッ、楽しませてくれよ?」
何だ。昔話か。実際に神がいるのかと思ったじゃん。
がんばえー、タケっさーん!
「ご主人様!」
おっと、マツが来たみたい。敵だと思われないといいんだけど……。
「この変態をどうにかしてください!」
うわー、マツの後ろから上半身裸のアフロ頭のおっさんが追いかけてる。完全に変質者だ。
「ローリロリロリロリッ!」
さっきまでの真面目な雰囲気が吹っ飛んでった。こいつ、絶対ロリコンだ。ロリって鳴いてロリコンじゃなかったら逆に怖い。
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