100話 ノックと【盟神探湯】


「暇だなー」


「いい事ですよ」



 交代してから、かれこれ2、3時間。何も起きずにずっとゴロゴロしてる。マツはいつも通り縫い物をしている。


 娯楽のアイテムがあればいいんだけど、残念ながらこちとら俗世に染まる余裕なんざ無いぐらいてんやわんやしてたからなー。



 コンコンコンッ



  ドアをノックする音がする。リューゲが帰ってきたのか。


「いいよー」




「お邪魔します!」




 は?




 青髪のポニーテールに、元気な笑顔、鳥の糞がよく目立ちそうな純白な鎧、この勢い。どこかで見たぞ?


 てか敵やん。呑気に寝転がってる場合じゃないな。



 とりあえず、

「だれ?」


「はじめまして! 私は正義のつるぎです! 以後お見知りおきを!」




 うわお。これから戦うだろうにとても丁寧だ。こっちも挨拶しなきゃ。


「ボクはノワールだよ。よろしく」


「ご主人様、私、忙しいのでおまかせします」



 おい。サボんな。





「それで、何故ここに?」



 同盟を組もうとかの可能性もあるし、一応確認がしなきゃね。



「この近くでうちの副リーダーが倒されたので仇討ちに来ました!」



 敵だわ。



「ボク達はたぶん関係ないよ」


「本当ですか! 双剣使いのパッとしない男なんですが!」



 めっちゃ心当たりあったわ。でも室内で戦ってうっかりガラス玉が壊れるのはまずいし、一旦追い返して外で不意打ちしよう。



「いやー、全く心当たりないねー」



「念の為確認してもいいですか!」


「お好きにどうぞ」


 確認なんてどうやっても無理だろ。倒したらポリゴンになるんだし。


「【盟神探湯くかたち】!」


「?」



「本当に心当たりは無いのですね!」


「え? うん」


 嘘がつけなくなるとかではないのか。



「…………っ!?」


「む、その反応は!」




「あっつ!!!!!!!!!」


 あちちちちちちちちち…………!?




「嘘をついたんですね!」


「なにこれ、あちちちち」



「説明しましょう! 盟神探湯とは、昔の日本で行われた、真偽を確かめるための方法です!」



 解説が始まった。あつっ! いってえー。



「お湯の中に手を入れ、正直者は石を見つけることができ、嘘をついた者は手が焼けただれます!」



 殺意高いな。通りで痛むわけだ。



「でも、焼け爛れてはいないよ?」


「相手がレベル的に格上だと効きにくいのです!」



 そこはちゃんとゲーム仕様なのか。せめて実際にお湯に入れさせるとかの方がいいだろ。お湯要素が殆ど無いじゃんか。



「そろそろ仇討ちをさせていただきます!」


 やばい。まだ若干痛む。右腕が使いずらいのはかなりのハンデになってしまう。



「さっきからうるさいです。それに敬語キャラは私がいるので被ってます。失せなさい」



 マツがいたんだった。……キャラ被りなんてどうしようもないだろ。人なんていっぱいいるんだから確実に誰かしらと被るだろ。




「私はうるさくないです!」



 そこ訂正する!? てか普通にうるさいよ?



「ご主人様、申し訳ありませんが、このアホの剣さんは私が倒します。ご主人様はここでゴロゴロしていてください」


「正義の剣です!」



 ハア。



「もう疲れたから頼んだよ」


「おまかせください」



「正義の剣です!」




 しつこいし、うるさいな。


「外でやって」



「わかりました。表に出なさい、アホの剣」



「正義の剣です!」




 Botかよ。


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