97話 “変化”と“停滞”
目が覚める。この日は毎年朝からハッキリと意識が覚醒する。
今日はログインしないことを、マツしか連絡先持ってないし、マツに伝えとくか。
これでよし。明日がイベントなのに余裕もって作戦とか考えてないが、何とかなるだろう。
「おはよ、姉さん」
「おはよ〜」
姉さんも今日だけはしっかり起きる。普段も起きて欲しいものだ。
「行こっか〜」
「うん」
去年と同じようにご飯は駅弁だろう。駅弁食べる機会なんて滅多にないから密かな楽しみでもある。
駅までゆっくりバスに揺られる。朝早いので人も少なくて心地良い。姉さんは窓の外の流れる風景を眺めている。黙ってても美人だ。茶化す気にもなれず、適当に持ってきた小説を読む。
乗り物で本を読んでも酔わないのはこういう時に役立つ。
『次はー○×□駅』
――ピーン
『次、停ります。お降りの方はバスが止まってから、席をお立ち願います』
どうやら着いたようだ。ここから新幹線に乗り換えだ。
「姉さん、着いたよ」
「え、あ、うん」
姉さんとバスを降りて、新幹線に乗る。
――ガタンゴトン
相変わらず姉さんはボーッとしてる。
朝早くとはいえ、やっぱり駅はそこそこ混んでいたが、新幹線の車内は快適だ。贅沢に指定席だからよりノンストレスで乗れる。
無言で駅弁を食べながら二人ともボーッとして過ごす。気まずいとか考えるほどコミカルな精神状況では無いし、家族だから無言でも気にならない。
《…………との約束よ。わかった?》
《うん》
「こうくん、着いたよ」
「え? うん」
昔のことを思い出してた。夢と
久しぶりの風景だ。ここからまたバスで移動する。
「変わってないな」
「少し変わったよ〜。あそこのお寿司屋さん、去年は無かったからね〜」
「言われてみれば確かに」
“変化”、俺の根幹を成す“停滞”とは対を成す言葉だ。俺はあれから変われていない。いつまでも、あの時に囚われたまま。
曖昧な記憶を頼りに、廃れた憧れを演じ、誰かの続きをする。ありもしないハリボテの“愛”で。意味なんて無いことは分かっているし、望んで無いのも理解しているけど、それをやめると止まったものが動き始める気がして。
進むと腐り、汚れ、消えてしまう。
それならばきっと進まずに止まっていた方がずっといい。
少なくとも俺にとっては。
「こうくん、大丈夫? 降りるよ〜?」
「うん」
共同墓地。二人の人生の終着点。個人のではないのは、昔馴染みのこの地で眠りたいという要望があったからだ。
墓石の汚れを濡れたタオルで拭ってから、水をかける。そして近くの花屋で買った花を添えたり、綺麗にする。
そして……
「母さん、俺、ゲームにハマって全然勉強できてないやー、でも気合いで受かるから、また報告に来るよ」
「お母さん、お父さん、私は元気だよ〜。こ〜くんともずっと仲良しだから安心してね〜。二人も天国で仲良くするんだよ〜」
姉さんはきっと俺より話したいこともあるだろう。育ててもらった年数だけでも俺より上だし。
「先に行ってるから」
「わかった〜。ちゃんとお土産渡してね〜」
「もちろん」
姉さんを置いて、先に母さんの実家、ばあちゃんたちの家に行く。お土産は駅で買った饅頭だ。
◇ ◇ ◇ ◇
「お母さん、どうすればいいんだろう? こうくん、約束を忘れてるかもしれないよ。色々あって大変だったから仕方ないとは思うけど……」
「ごめんね、お母さん、愚痴なんて。でも、私も昨日ね、自分でも成長したなって思うことがあってね……」
「お父さん、ゲーム、すごい人気だよ。こうくんもとっても楽しんでるみたい。自分の目で見て欲しかったけど、前みたいな退屈な目はしなくなったよ……」
「お父さんによく似てきてて面白いんだ。こうくんはあんな態度だけど、こうくんも気づいてないけどお父さんのことは大好きなはずだから安心してね……」
「私たちはしっかり生きてるから、安心してね。また今度、こうくんが受験に受かったら来るね」
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