95話 ナンパ?と【飛翔】


 困った。



「怪しいな! 捕まえろ!」


「「はっ!」」



 ネアが急に止まって先行ってと言ったから先に行ったら関所があって詰んだ。身分証なんて無いんだから。ネアは俺が追われているうちにするっと町に入っていた。


 絶対許さんぞ!



 ここで捕まるのも癪だし、もう殺っちゃおう。捕まえるべき怪しい人に殺されるこいつらが悪い。


 という訳で久しぶりのキャシーちゃんのナイフ。



「【怨毒】」



「ぎゃあああ」「ぐおっ…………」「ごへ」



 三者三様の死に方だ。これが無常ってやつか……。


 さて、ネアを追って一発ぶん殴らなきゃ腹の虫が治まらないのでネアを追って町に突入。




「あれ?」


 ネアが絡まれてる。馬に乗って周りの人達がひれ伏してるし、きっと重鎮なんだろう。


 こんな古風な場所でナンパとは許せん。



「やめてくれません? 俺の彼女なんで」



 こういうのは彼氏が現れると舌打ちして去るって相場が決まってんだ。


「将軍様の御前でこうべを下げない不敬者が二人も!?」


 あれ?


「お主、何を勘違いしているか知らぬが、その娘が儂の前で頭を下げないから切り捨てようとしたまで。お主もその対象らしいな」


「はい?」


 勘違い野郎でした、俺。




 いや、それどころじゃないな。切り捨て御免ってやつか? 復活できるからいいけど、痛いのには変わりない。


 どうせ戦うんだし、ここで一発ぐらい食らわせてもセーフやろ。



「【スリップ】」



 ツルッ



 馬を対象にして転ばせた。落馬確定。あわよくば死んでくれ。



 そして、


「【飛翔】」



 逃げるんだよー。



 俺は優しいのでネアもちゃんと抱えて飛ぶ。ただし、後でぶん殴るのは忘れない。


 スキルレベル的に2分しか飛べないので最高速度でアジトの方角に飛ぶ。I can fly!



「…………こ……」



 ネアが何か喋った気がするが、風で何も聞こえない。あとでたっぷり聞いてやるからなー。



 それにしても速いな。これならギリギリアジトに飛んで着けるんじゃないか?


「………………ま……」



 また何か言ってる。


「あとで聞くから」


 返事してみたけど、これも風でかき消されてそうだ。



「……めさ…………」



 だから何も聞こえんて。





 アジトに到着。向こうからしたらすぐ帰ってきて驚いてるだろう。


 坂本さんが近づいてくる。その近くに着地の体勢に入る。



「よっと」


 スタンッ!



 ヒーローみたいな着地だ。我ながら決まったと思う。ん? 坂本さんがすごーくニヤニヤしてる。気持ち悪いぐらいニヤニヤしてる。何この人、不審者? ってぐらいニヤニヤしてる。


 殴りたい、その笑顔。



「随分と仲が良いみたいじゃのー?」


「仲?」


「……クロ、抱え方」



 抱え方? あっ、…………すぅー。



 世間一般的に言うところのお姫様抱っこじゃん。え? ここまでずっとこれだったの?


 ネアが喋ってたのって、これを伝えるため?




 スタッ



「…………」


「……ずっと言ってた」



 ほんとごめん。抱っこする方もされる方も、確実に恥ずかしいよな。他の人に見られたんだから尚更だ。



 こうなったら、


「死人に口なしって言うよな?」


「……落ち着いて……海渡れなくなる」



 うぐっ。


「でも……」


「……私もそうしたい……我慢」



 ほんまごめん。



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