87話 模試とアイスコーヒー
ガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤガヤ
丸一日かけての模試が終わって帰宅中。それにしても騒がしいな。他の人たちの迷惑とか考えろよ。
「学生さん達、今日も元気そうね〜、じいさま?」「そうだなー、ばあさま」
あんまり迷惑ではないようだ。にしてもこうやって模試を受けると受験までのカウントダウンを目の前に突きつけられてるみたいでやだなー。
現実逃避しか勝たん!
「あ、ご主人様」
ザワザワ
何かデザートでも買って帰ろうかな。プリンにしようかなー。姉さん喜ぶといいな。
「ご主人様」
ザワザワ
公衆の面前で変なプレイしてるカップルでもいるのか? もう夜とはいえ、結構人も多いのによくやるなー。
「ご主人様ってば!」
ガシッ
「は?」
ザワザワ
待て待て、この声、つい最近聞いたぞ。
「やっぱりご主人様ですね」
「…………マ、ツ?」
「そうです。ご主人様のマツです」
終わった。公衆の面前で変なプレイするカップルの片割れの立ち位置に収まっちまった。同じ学校の連中もいる。変な噂立つのが確定したわ、これ。
「場所変えない?」
「そうですね、あそこのカフェにしましょう」
「あいよ」
この場で誤解を解こうと言い訳をしたところでこんな面白いネタ、嘘だろうが噂になる。諦めてこれ以上の被害を出さないに限る。
「ご注文はお決まりでしょうか!」
カフェのテンションじゃなくね?
「俺はアイスコーヒーで」
「私はカフェラテの濃いめ、多め、マシマシで」
は?
「ご注文承りました! アイスコーヒーとカフェラテ、濃いめ、多め、マシマシでよろしいでしょうか!」
「はい」
いいの?
「少々お待ちください! 店長! アイス一丁!」
「アイス一丁!」
「ラテ一丁、濃いめ、多め、マシマシです!」
「ラテ一丁、濃いめ、多め、マシマシ!」
「何これ…………?」
「ここ、私の行きつけなんですよ。明るい店でしょう?」
そんな次元じゃないやろ。カフェとしての何かが決定的に欠けてるぞ。
「ここ、ノリがカフェのそれじゃないと思うんだけど?」
コソッと耳打ちをする。
「え? それはそうですよ。だってここ、ラーメンカフェですよ?」
おかしい。俺の知ってるラーメンカフェはカフェのような落ち着いた雰囲気のラーメン屋であって、ラーメン屋の様な陽気なカフェでは無いんだが。
入る時に暖簾が掛かっててあれ? とは思ったけど、失敗したかもなー。衆目の目からの逃げたさでノータイムで同意したから……。
「そんなことより、ご主人様、ここら辺住みなんですね」
そんなことって……、
「ここら辺ってほど近くはないけどな。とにかく、俺は黒川
「では光様と」
「却下。黒川くんで」
「えー」
子供か。あんた社会人だろ。スーツ着てる時点で歳上ってのは分かってんだぞ。珍しく敬語使ってないが、こいつに敬語は使いたくない。何か負けた気分になりそう。
「お待たせしましたー! こちら、アイスコーヒーです!」
「あ、どうも」
「そしてこちら、カフェラテ、濃いめ、多め、マシマシです!」
「ありがとうございます」
「ごゆっくりどうぞー!」
これだけは聞きたいな。
「さっきの呪文何?」
「呪文ですか?」
「濃いめ
「あぁ、あれはここの裏メニューのようなものでして」
ほほう。
「私の例で言うと、カフェラテの、ミルク濃いめ、砂糖多め、水マシマシ、といった内容です」
タイム。白っぽくて薄いなとは思ってたけど、それ、ほぼ牛乳を大量の砂糖水で割った飲み物じゃねえか。絶対美味しくないだろ。
てっきり凄い濃いカフェラテだと思ってたのに。
ん?
「アイスコーヒーは普通に美味いんだな」
「カフェラテも美味しいですよ。一口飲みます?」
思春期の男子に関節キスなんて高度なことを要求するなよ。
「遠慮する」
「残念です。きっと世界が悪いんです。こんな世界……」
そんな残念がる?
「冗談はいいけど、何の用で呼び止めたんだ?」
「え?」
「え?」
何故そこで首を傾げる? こっちが聞きたいんだが。
「えっと、呼び止めたのはただ見かけたからで、特に用事はありません」
おい。俺が変態のレッテル貼られ損だっただけじゃねぇか。ん? 待てよ……
「どうやって俺って分かったんだ?」
「身のこなし方です」
こわいわ。
「ご主人様の言動の癖まで覚え、目を瞑り、耳を塞ぎ、五感が使えなくなってもご主人様の為に行動するのがメイドの必須スキルですから」
メイドのハードル急に爆上がりするやん。こいつ、メイドをバケモノか何かだと思ってない?
「飲んだら帰るかー」
「あっ、連絡交換しません?」
ネットリテラシー的にもう少し注意した方がいいと思う。お友達が増えるのは嬉しいから断らないけど。
「本名を公開してるけどいいの?」
「別に困りませんし」
本名、
あー、アイスコーヒー美味い。普通のカフェだったら人気出てたろうに……。
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