86話 捕虜とチャカ


「この人間です」


「ありがとうございました。下がってください」


「は!」


 俺は単純な好奇心に駆られてソルさんと一緒にいる。マツもだ。他は既にそれぞれの部屋に行ったようだ。駐屯地に個室があるのって凄いことでは? 魔法やスキルのおかげだろうけど。




「お偉いさんのご登場ってか?」


「貴方が捕らえた人間ですか」



 イケおじって感じだ。恰好は典型的なカウボーイ。西部劇に出てきそうだけど、ファンタジー世界では完全に場違いなんよ。



「貴方はどこから来たのですか?」


「南の海の果てからだぜ」



 スパイではないのか?



「ここに来た理由は何ですか?」


「旅してたらここの連中に捕まって、飯が出されるから旅の休憩として居座ってるだけだ」



 めっちゃ図々しいやん。タダ飯食らいめ。



「なるほど……つまりここからはその気になれば出られると?」


「あたぼうよ。ここにいる連中全員のして出られるぜ」


「それは聞き捨てならないね」


 捕まったカウボーイに負けるわけない。



「縄で縛られてるから負けねぇって? こんなもん縛られてる内に入らねぇぜ。ほらな」



 一瞬で縄がずり落ちる。スキル無しで縄抜けできるのか。でも、


「一騎打ちするかい? ボクに勝てるか試してみなよ」


「いいぜ。乗った」



「クロ様? あまり余計な事は慎んでいただきたいのですが……」



「男と男の勝負に口出しすんなよ、お偉いさんよー」


「悪いけど、舐められっぱなしは癪でね」



「ハァ、貴方からも何か言ってください」


 マツに話を振ったようだけど、

「ご主人様、頑張ってください。 審判は私がやりますので」


「皆さん血気盛んですね……ハァ、分かりました。ただし、殺しはダメです」



「ありがとう」「お偉いさんは大変なんだな」



 俺はキャシーちゃんのナイフを右手で構え、左手で今剣を逆手で持つ。


 対するカウボーイは腰のベルトに手を当ててる。このゲーム、銃は出てないので魔法で代用するんだろう。



「では、はじめっ!」


 パンッ!


 マツの掛け声と同時に破裂音が聞こえ……


「【サイドステップ】ッッッ!」


「今のを避けるか。いいねー。なら少しギアを上げていくぜ」



 パンッ! パンッ! パンッ! パンッ!



 身を捻り避けるが、二発掠った。かすり傷だから大丈夫だが、あれは間違いなく銃だ。銃があるとは聞いてないぞ。ずるい。


「【ロックオン】【換装:ガトリングガン】」


 ガトリングガンもあるのかよ! しかも二つも。ヤバい、スキル言う時間が……




「そこまでです!」


 マツの終了の合図。これは完全に負けたな。あのまま続いても一瞬で蜂の巣になってた未来しかない。


【スリップ】でも弾幕の場合近づけずに体勢を立て直される。【深化】でもガトリングガンの連射速度や、普通の銃の威力的に蜂の巣になっていただろうし。



「勝者、おっさん!」


「ティグメだ!」



 カウボーイ、名乗ってなかったから自業自得やろ。



「ま、言った通り、ここの連中なんてその気になりゃ簡単にのせるだろ?」


「全員は無理でしょうね。数の力で倒せるでしょう」



 だろうな。数人肉壁になれば普通にリンチできるはずだ。



「わかったわかった。そろそろ旅に戻るからいいだろ?」


「怪しい人間をむざむざ解放しませんよ」


「捕まったのはわざとだぜ? お偉いさんに俺が捕まえられるか?」



「可能です。【純潔の檻房かんぼう】」


「おうぇ?」



 ほう? 白い檻がカウボーイの周りを囲った。かっこいいスキルだなー。


「おいおい、こんな檻で俺が出れなくなるわけないだろ?」


 パンッ! パンッ!


「は?」


「その檻の中から外には干渉できません。外からはできます。食事は用意させますのでご安心を」


 ハメ技じゃん。チートや!



「嘘だろ……」



 凹んだカウボーイを置いて、俺たちはそれぞれの部屋に向かった。



「ねぇ、あんなスキルあるなら簡単に戦争でも勝てると思うんだけど?」


「そうですね。しかし、あのスキルは少々使用条件が複雑でして、使用出来る状況が少ないのです」


「それは難儀だねー」


「そうですね」



 気になったことを聞いてみたが、あんまり使い勝手は良くないようだ。



 マツ、さっきから静かだな。何かを考え込んでる様子だ。どうしたんだろう?

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