65話 相談とサイコロステーキ
どうやら姉さんはまだログイン中のようだ。夕飯何にしようか。今日はちょっと豪華なやつを作ろう。チャーハン? ラーメンとか? ステーキ、うん! ステーキにしよう!
冷蔵庫確認。無い。買い出し行くか。
日が暮れてきた。綺麗な夕焼け空だな〜。たまにはのんびり歩くのもいいな。近所のスーパーまでなんだけどな。
ん? 図書委員の人だ。名前は……なんだっけ?こんな夕方に公園のベンチでボーっとしてるけど、どうしたんだろ。気にはなるけど、あんまり関係が深いわけでもないし、無視していこう。
「黒川くん?」
ッ! 気づかれた。ちょっとびっくりした。やべ、名前わかんない。早く会話を打ち切ろう。
「どうも」
「買い物ですか?」
「そうです」
「お疲れ様です」
「どうも」
このコミ障同士の会話みたいなのめっちゃ居心地悪いんだけど。もう行っていいかな? いいよね?
「黒川くんは自分の上位互換みたいな人を
何? 哲学の話? てか日常会話で「目の当たり」とか使う?
「えーと、ポジティブシンキングで乗り切るとか?」
適当に誤魔化して去ってしまおう。
「ポジティブシンキング、ですか……」
「はい」
「具体的にはどんな風に?」
深堀りすんなよ! こっちはもうお腹いっぱいなんだよ!
「場合によりますね」
「確かにそうですね、少し時間ありますか?」
断ろう。NOと言える人間を目指してるんで。……表面上は普通に見えるけど、今にも死にそうなオーラが漂ってる。これほっといたら自殺とかしない? それで遺書とかで俺の名前が出てきたら捕まったりしない?
……仕方ない。ここを通ったのが運の尽きと思っておこう。
「少しなら」
「ありがとうございます」
そう言うと近くの自販機に向かっていった。俺はどうすればいいんだ?
「座っていてください」
「あ、はい」
なんだ? 飲み物持ってきてない俺への当てつけか?
「これ、どうぞ」
「どうも?」
くれたのはスポーツドリンク。話聞いてくれるからあげるってことか? 俺はそんな安くないぞ!
……うまっ。久しぶりに飲んだな。最近は運動してないから飲んでなかったからなー。
「本題に入りますが」
「どうぞ」
「全てのスペックで上をいかれ、背負ってきたものが圧倒的に違うと見せつけられました」
何それ、政治家にでもなろうとしたんか?
「よく分かりませんが、その人を超えなきゃいけないということですか?」
「…………超えたいんです」
願望か。
「そもそも世の中、上位互換で溢れかえっていますよ。明確な1番なんて主観でしかないですし」
「…………」
「人を勝手に上に見て、自分を卑下して、そんなことに割く時間があるんなら、まだアリの生態でも調べた方がマシですよ」
「…………」
「相手を超えたいとのことでしたが、それならこんなちっぽけな公園のベンチなんかじゃなくて、自分を磨くなりできることはあるはずです」
「そうですね」
なんか説教くさいこと言っちゃったな。テヘペロ。
「ありがとうございました。買い物の邪魔もしてしまって」
「いえ、大丈夫ですよ。一応補足しておきますと、格とかより、役割の方が大事ですよ」
「役割ですか?」
「その上位互換だと思ってる人だって一人の人間です。全てに手を伸ばせるわけじゃないはずです。貴方の届く範囲でできることをすればいいんです」
「なるほど……」
「優秀だけど善良な人を殺して牢屋で暮らす人より、馬鹿だけど子供を助けるヒーローの方が素晴らしい人間だと思いませんか?」
「確かに。私の役割……」
「自分の役割は自分で探した方がいいでしょう。そろそろ買い物に行きます。暗くなる前に帰ってくださいね」
「分かりました。本当にありがとうございました」
別れてスーパーに向かう。……ヤバイ。語りすぎたかもしれん。しかも名前聞くのも忘れた。
にしても役割か……よく俺の口からそんなことが言えたな。自分のやりたいことを気ままにやって、役割なんて微塵も意識してないのに。なんか一気に疲れたな。
「というわけで、サイコロステーキです!」
「よくわかんないけど楽しそうで良かったよ〜」
「いただきます」
「いただきま〜す」
「それで、イベントどう?」
「ん〜順調かな〜」
「部屋あった?」
「あ〜、なんか黄色の間? みたいなところに行ったよ〜」
黄色? ……あっ
「
「へ〜そうやって読むんだ〜」
中二病を患ったことの無い一般人は読めないのか? どうなんだろ?
「勝てたんだ?」
「倒したことあるくまさんだったから簡単だったよ〜」
なるほど、やっぱり入ったプレイヤーの討伐した相手がでてくるのか。俺は運が悪かったのか。普通そんなレベル差のある敵を倒せると想定されてないだろうしな。
「他の部屋は?」
「お姉ちゃんは行ってな〜い」
「そっかー」
眠くなってきた。風呂入って早く寝るかー。
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