64話 クソ犬とマリーの父

 


 ドーーーーン!!!!!!!!!!


 遠くの方から凄い爆発音が聞こえた。何かあったんかな?


「ホントに大丈夫?」


「大丈夫だよ、ただのかすり傷だから」


「そう?」


 村に戻る最中だが、このやりとり何回目だろうか。


 グラグラグラッ ドンガッシャン


 地面が揺れる、その影響で木々も倒れ出してる。運のいいことに崩れそうな岩場は既に抜けていて、ここは村近くの草原だから危険は無い。二人は立っているのもやっとだが、俺は【浮遊】のおかげで全く問題ない。



 〈誰だ、わしの要石を壊した者は!〉



 村の下からメロスの巨大化バージョンより一回り大きい、学校の校庭サイズの犬がどこからともなく現れた。



「ボクだけど何か問題でもあったかい?」


 〈人間風情がわしの盾を壊しておって!〉



 盾?



「結界じゃなく?」


 〈何を勘違いしているか知らぬが、あの邪竜に正面から勝てるわけもない。貴様らを殺して逃げるとしよう〉


「君はここを守る守護獣と聞いたけど?」


 〈そんなもの、この地に棲むように言われ、たまたま人間がいたから食料にしていただけのこと〉



 うわ、食料として守ってただけってことかよ。結界もここを守るものじゃなくて、このクソ犬を守る盾だったってことか。壊して正解だったな。



「二人は離れてて」


「はーい」「ご健闘をお祈りしています」



 来た道を戻っていくのを確認してから、開戦じゃい!


「【スリップ】」


 ツルッ ズドンッ!!!!



 〈な、何が!?〉


 さっすが、大先生。なんでもひっくり返してくださる。


「〖chaotic hands〗」



 大きな灰色の手の平を出し、ひっくり返ったクソ犬を押しつぶすように叩きつけてみた。


 〈グエ〉


 …………弱くね? ピクピクしてる。



 〈ああ、ご主人様、やはりわしは見捨てられ……〉



 死んだみたいだ。ご主人様とやらは運営のことか? いや、シナリオの一部か? 分からん。



「終わったから戻ってきていいよー」



 マリーさんは大きく手を振って、お義父さんは頭を下げてこっちに歩いてくる。返事したんだろうけど、遠いから聞こえなかった。


 とりあえずこれでシナリオは……あ、邪竜がまだか。



「ギリギリ君たちの家だけ無事だったね」


「疲れたから寝てくるわ!」「他のみんなは無事でしょうか」



 他のみんなはクソ犬が踏み潰さなくても既に死んでんだよ。すまんな。



「さて、邪竜の話をしようか」


「そうですね」


「いつ来るかな?」


「通例ですと明日の朝から昼の間です」



 イベントが終わるのは夜のはず。つまりかなり強いのか、また別の敵がいるのか。……それは無いか。敵が多すぎることになる。本来クソ犬と協力して追い払って、その後にクソ犬を倒すのが想定されていたシナリオだったのかもな。



「今更ですが、本当にありがとうございます」


「?」


「娘を助けてくださったことに対してです」


「あー、気にしないでくれ」


「実はあの子が小さい時、妻が生贄として捧げられたので……」


「それ以上は辛いだろうから言わなくていいよ」



 この人めっちゃ苦労してんな。大切な人が目の前で死にゆくのを受け入れるなんてな。



「ですから、本当に感謝しているのです」


「そういうのは全部終わってからにしようか」


「それもそうですね」



 途中から敬語になってたのは感謝してたからか。離れた年上に敬語使われるのは違和感が凄いんよな。



「明日に備えて今日はもう寝るよ」


「おやすみなさい」



 団長さん戦で疲れたから休みたいからな。部屋を借りてログアウト〜。

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