54話 第一回イベント開始と【偽装】
優しく外套を揺らす風、見渡す限りの草原、そしていくつかの雑音。
「うひっひゃー、痛いやつがいるぜ! 死ねっ!」
チンピラを体現したかのようなモヒカン男が短剣を片手に飛びかかってきた。痛いとか言うなよ、割と自分でも気にしてたんだから。
「【サイドステップ】」
「【スピードスロー】」
俺が避けると同時に手に持った短剣を投げるモヒカン。意外と頭脳派じゃねーか。
カンツ
今剣で弾く。
「火よ波打て、〖ファイヤーウェーブ〗」
「な!? 魔法かよ!」
そのまま魔法に直撃して死んだようだ。モヒカンは魔法への対処法がなかったっぽいな。対処法と言っても、回避か魔法での相殺ぐらいしか無さそうだが。
ドーンドーン
どこからか爆発音が聞こえた。今ので人が集まるはずだ。ここはカルマ値が悪のヤツらの溜まり場だし、きっと殺し合いが始まるんだろう。どれ、少し本物を見せてやろうじゃないか……
「…………クロ」
!?
「なんだ、ネアか」
「……それが素?」
「そうだな」
「そう……」
信用できるやつと合流できたのは運が良かったな。ネアは外套を着ていて表情が更に読みにくくなっている。
「どうする? 組む? 殺り合う?」
「……組む」
「じゃあとりあえずさっきの爆発音がした場所まで行くけどいい?」
「ん」
移動しながらお互いの戦力を把握した方がいいかな。
「俺は近接も遠距離もいける、戦闘と探索と交渉と隠密行動が得意だけど、そっちは?」
「……戦闘……探索」
「おっけー、分担するか」
「ん」
お、木が見えてきた。草原が終わって森に入りそう。そろそろ着くっぽいな。ここからはこっそりと……あ! お面のスキル使い忘れてた。
【変声】と【偽装】をしなければ。あのモヒカンは…………まあ、大丈夫だろうがここからは気をつけよう。
「あ、あーー」
元の声もそこまで低くはなかったが、更に中性的な声になった。完璧。
【偽装】の方は目の前にパネルが現れたので選んでいく。全部伏せた方が強キャラ感が出て良さげかな。
プレイヤーネーム:――――
種族:――――
レベル:――――
状態:――――
特性:――――
HP:――――
MP:――――
スキル:――――
これで他の人間には、何も分からない謎のヤバそうなやつって認識されるだろう。
「ひとまず木の上から様子を見てみようか」
「ん」
近くの木に登ると、それに続いて登ってくる。別の木に登った方がいいんだろうけど、軽そうだし枝が折れたりはしないだろ、知らんけど。
太めの枝で待つとネアも枝で止まり、迷子ちゃんのところの仮面をつけた。
「そい」
「……」
ひょいひょいと木から木へと渡っていくと騒ぎの中心と思われる少しひらけた場所を見つけた。
「 この程度が人間の底力なのかしら? 最弱種族じゃない、オーホホホ」
「その通りでやんす、お嬢様!」
黒と白のレースの入ったドレスを着た、大鎌を持った黒髪サイドテールの赤眼少女が高笑いしている。傍らには詐欺師っぽい胡散臭い笑顔を浮かべている七三分けの深緑色の髪の男が手の平をスリスリしている。
そしてその足下にはたくさんの人が倒れている。少女は踏んで威張ってるけど、踏まれてるやつはなんか喜んでるぞ。幸せそうな満面の笑みを浮かべてやがる。
頭が痛くなる光景だ。
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