52話 遠い道のりと食事情



「遠い」


 〈そんな直ぐ着くわけないじゃない〉


「本当にこっちで合ってるんだろうな?」


 〈私が方角を間違えることなんてないわ〉



 樹海なう。聖王国のすぐ北には広大な樹海が広がっていて、今絶賛そこを突き進んでいる。



「いつぐらいに着くかなー」


 〈目的地の正確な位置は分からないけど、この樹海を抜けるのに少なくとも5日はかかるわ〉



 は?



「いやいや、俺が王国から聖王国まで滞在期間も含めて6、7日で着いたんだけど?」


 〈この大陸は縦長だから横方向は直ぐに着くけど、縦方向にはそこそこ時間がかかるわよ〉


「今まで真っ直ぐ東に進んできたけどこの辺の国はみんな縦長なのか?」


 〈今の人間の国は分かんないけど、たまたま直線上に並んでた所を進んだだけなんじゃない?〉



 偶然? いや、道は整備されてたから元々一直線の最短ルートが用意されてたのをたまたま使ったってことか。ラッキーだ。


 それにしても今考えると国自体かなり小さめだよな。もしかしたらそういう世界として設定されてたのかもしれないな。リアルなところが多いけど、流石にプレイヤーが回るには広くなりすぎるといかんから小さくした可能性が高そうだ。



「ギギッ」


「またカブトムシか。クワガタは全然出ないな。〖chaotic arms〗」



 腕十本による一斉攻撃。硬い甲殻動物と言えども耐えきれずに粉砕。



「こっからが本番だー」



 ここまでで11体を倒したのでMPが回復するまで打ち止め。


 ん? 運営からメッセージだ。どれどれ……ほう。



「メロスさんや、明日の朝から異界人の集まりみたいなのがあるんだけど、ここら辺で時間潰しててくれない?」


 〈いいけど、今から間に合うの?〉


「今いる所から転移的なので行けるし、元の場所に戻るから大丈夫らしい」


 〈ならいいわ。何日ぐらい時間潰せばいい?〉


「明後日の夜だと思う」


 〈わかったわ〉



 初のイベントだ。今回のイベントのイベントの個人的な目標は仲間づくりだ。なにやら運営もそれを促すような形をとっているし。









「今どんぐらい進んだー?」


 〈さっき聞いたばっかじゃない〉


「もう飽きたー」


 〈シャキッとしなさいよ〉



 だって全く同じ景色しか見てない上にまだ半分も進んでないと聞いたら精神的に辛いじゃん。


 今はもう日が沈み始めて烏が鳴き出す夕方。あれから俺たちは何の進展もなくダラダラと進んでいた。そろそろレベルの一つや二つ上がってくれてもいいんだけどな。



「今日は徹夜だったしもう寝る」


 夕食はもちろん非常食的なやつ。ここら辺はカブトムシばっかりでまともな肉が無いからな。



 〈おやすみー〉


「おやー」




 ログアウト。





 いんざキッチン。



「……い。……しま〜す、は〜い。失礼しま〜す」



 姉さんが電話をしていたようだ。この時期だから……まあ、そこは姉さんに任せてあるので俺が触れたりはしない。


 今日の夕飯はネギとチキンの照り焼き丼にしよう。それだけじゃ寂しいので豚汁とサラダも作るか。


 ゲーム内じゃあ美味しいものを食べる機会は少ないからせめて現実では美味しいもんたべたいしな。


 ……他のプレイヤーがどんくらいの食事水準なのか気になってきた。



「姉さーん」


「は〜い、どうしたの?」



 ひょっこりと顔だけ見せる姉さん。



「ゲーム内の食事ってどんな感じ?」


「森にこもってるから他の人は知らないけど、お姉ちゃんは適当に野生動物を狩って食べてるよ〜」


「ありがと、とても参考にならなかったよ」


「え?」



 姉さんが蛮族に退化? したのはどうでもいいんだが、町にいるプレイヤーは俺より良い暮らしをしてるかもなー。俺野宿ばっかりだし。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る