51話 ★turning point★ 決断と脱初期装備
〈昔は竜の峡谷と呼ばれていたわ。今もかもしれないけどね〉
「サキュバスさんもそんな風に呼んでた気がするなー」
〈やっぱり変わってないのね。竜の寿命は長いから私が小さい頃からずっとその名前だったのよ〉
「へー。ちなみに今の俺、竜倒せたりする?」
〈そうね……
いけるなら行ってみたいな。流石に竜全てを的に回すのは恐いからやめとくけど、ちょっと手合わせとかなら問題ないだろう。
〈ただ、昔から生きてる竜は若い竜より格が違うぐらい強いから、勝てるのは若い竜だけよ〉
「どうやって見分けるんだよ」
〈年寄り竜は若いのより大きくて、鱗がピカピカしてない感じね。実際に見てみればわかるわよ〉
確かに百聞は一見に如かずとも言うからな。
う〜ん、ここまできたら折角だし竜の方に行こうかな……待てよ、ネアには王国で迷子ちゃんが助られてたな。借りが一つあるという訳だ。
後でってことも出来るが…………う〜〜〜〜ん
「どーーーーーーしよっかなーーーー」
恩義か好奇心か、二つに一つだ。
〈何を悩んでるの?〉
そういや、まだ説明してなかったんだ。
「実は異界人の友達? みたいなやつに北の方での手伝いを誘われて? 的な感じ」
〈なんでそんなにハッキリしてないのか気になるけど、行きたい方に行けばいいんじゃない? 強制じゃないんでしょ?〉
ド正論。なら竜の方に……
「いや、ここは人として助けなければっ!」
〈ご主人ってなんか悪役っぽいことしようとしてたけどいいの?〉
RPが崩れるとかそういうことか。
「確かにそうかもしれないが、俺は黒幕だからな」
〈? どうゆうこと?〉
「味方が少ない時はまず地盤固めが大事なんだ。大手になれば個人まで気が回らなくなるかもだが、今はその時期じゃないから部下の育成、補佐も重要になってくるんだ」
〈よくわかんないけど、大変そうね〉
こればっかりはこだわりだしな。
「ともかく、俺は北に、というか王都から東北東だからここからは北北西くらいかな、に行くけど、お前はどうする?」
〈もちろん着いて行くわよ〉
ペットだしな。
〈今何か失礼なこと考えたでしょ〉
「それは気のせい」
〈本当に?〉
「さて、身支度もクソもないし、行くかー」
〈ちょっと?〉
そういえばここまでずっと初期装備の服だったわ。外套のせいで忘れてたけど、いい加減替えたいな。大司教さんは女性だから男ものはないだろうし、教会から持ち出そうかな。
「一旦服を探しに行こうか」
〈あ〉
「え? 何?」
〈いやー、忘れてたー〉
そう言いながら机に置いてあるカバンから何かを取り出す。
「それって……」
〈渡し忘れた服よ。サキュバスが置いてったやつね〉
おい。
「ちなみにスキル付いてる?」
〈付いてないわ。でもオシャレでしょう?〉
受け取って広げてみると騎士風で白メインの、青が所々入ったシンプルなデザインだ。
〈これも大司教から巻き上げた物らしいわ〉
「これ“も”って言ったか?」
〈勿論、狐のお面もよ〉
あんな業物よくあったな。大司教さん、割と良い身分だったのでは?
「これで完全に準備が要らなくなったし、行くかー」
〈そうね〉
その前にメッセージを送ろう。
{今からそっちに向かうけど、何か目印のある場所で集合しない?}
{大きい風車のある村に}
{帝国の領土?}
{そう}
{わかったー}
「帝国の北側の、風車が目印の村に行くどー」
〈どー〉
◇ ◇ ◇ ◇
白い空間。そこに髪、肌、眼も白い少女が1人。
『逸脱干渉指示を撤回しました』
『よかったです。ギリギリでしたが、なんとかそちらに進んでくれましたね。まだまだ道は険しいので頑張って欲しいです』
『特別個別観測モードを終了します』
どこからか黒髪ロングの少女が現れる。
「それで、どうしますか、お母様」
『そうですね、特別観測対象者
「承知しました。そのように進めておきます」
『2日後でしたね』
「はい」
『ふふ、ようやくお話ができますね、お兄様』
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